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INTERVIEW

東京医科歯科大学 テニュアトラック講師

遺伝統計学

岡田 随象

関節リウマチに対するゲノム創薬の新たな可能性

世界的な科学論文誌の中でも格別な存在感を保っているのが英国のNature。
雑誌Natureに掲載される論文は、すべて「ピアレビュー」といって専門科学者同士の査読プロセスを経て、掲載が判断・決定されています。採択率が非常に低いことでも有名で、全ての科学研究者の憧れです。そして近年話題になっている「遺伝子」。その新しい分野で、日々研究を重ね、若くしてNatureに論文を通した研究者医師がいます。
東京医科歯科大学で「遺伝統計学」を研究される岡田 随象先生です。「遺伝統計学」とは、そして「Nature」に掲載された経緯とは。遺伝子の今後の可能性に関してもお話を伺いました。

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「遺伝統計学」とは

まずは岡田先生のご専門である「遺伝統計学」について教えてください。

「遺伝統計学」とは「遺伝情報」と「形質情報」の関わりを、統計学の観点から評価する学問です。
「遺伝情報」とはゲノム(DNA)など、親から子へと引き継がれるものです。「形質情報」とは人から得られる様々な情報(表現型)を指します。遺伝情報も形質情報も、個人によって少しずつ違います。例えば髪の色、目の色のほか、病気になりやすい・なりにくい、背が高い・低いといった形質情報の個人差は、遺伝情報の個人差を部分的に反映しているものだと考えられています。このように少しずつ違うもの同士のつながりを考える場合、データが膨大かつ複雑になるのでコンピューターと統計学の力を借りるのです。

「遺伝統計学」という言葉を初めて聞いた方も多いと思います。そもそも人のDNA、ヒトゲノムの配列の全容がわかったのが約10年前です。全容がわかった結果、比較的簡単にヒトゲノムの個人間での違いを解析できるようになったことで、一気に学問、研究分野として発展しました。現在は数十万人単位の遺伝情報をコンピューターで解析することができます。そこまでデータが大きくなると、エクセルに入力してというわけにはいかないので、スーパーコンピューターなどを使用して解析していきます。いわゆる「ビッグデータ」です。

今後の遺伝子に関する研究は、どんどん統計学的な観点が強まっていくでしょう。集めたデータをどう解析していくかが、これからの研究のカギを握っています。新しい分野、学問なので、前例や先行研究が少ないのが難しいところですが、関わる人たちも若いので、まったく新しい分野にアイデアを出し合って挑んでいくのはすごく面白いです。

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なぜ遺伝統計学を研究しようと思われたのですか?

元々は公衆衛生や疫学といった分野に興味があり、医学部の学生の頃はタイやキューバなどいろいろな発展途上国に出かけては、公衆衛生や疫学に関するデータを集めていました。

すごく楽しい作業でしたが、そのうちに「データを集めるよりも、集めたデータを解析するほうが好きなんじゃないか?」と思い、医学部を卒業後、初期臨床研修を経て東京大学大学院に進学しました。東京大学医科学研究所や理化学研究所、米国Harvard大学でも勉強する機会に恵まれ、現在は臨床現場を離れ、基礎研究者として活動しています。

岡田先生は、特に関節リウマチの研究をされているとのことですが、関節リウマチと遺伝統計学はどう関係しているのでしょうか?

関節リウマチは免疫の異常によって手足の関節の破壊を生じる病気ですが、今でも原因不明な部分が多い病気でもあります。急に発症し、生活に重大な支障を来す病気です。女性に発症する事が多いのですが、それがなぜかもわかっていません。また、根本の治療法はまだ確立されていないのが現状です。
そういった原因のわからない病気を、ゲノムの解析によって少しでも解明したいと考えました。

特に、関節リウマチの治療は「0か1かの判断が難しい」ことの多い分野です。これが例えば外科なら「手術をするか、しないか」という0か1かの判断ができますが、関節リウマチの治療ではなかなか割り切ることができず、「確率に基づき0でも1でもないこの治療法を選ぶ」といった判断をすることもよくあります。
そういった部分で確率・統計とも相性がよい事と、初期研修時代に関節リウマチの患者さんを治療する診療科での臨床現場も見ていた事があり、関節リウマチを研究する事を選びました。

過去10年のゲノムの解析により、関節リウマチの原因となる遺伝子は多数発見されてきました。さらに解析が進めば、今までわからなかった関節リウマチの真の原因までわかるようになるかもしれません。
データが集まり、大きくなるほど解析は進むので、これから10年後にはもっとすごい進歩を遂げる可能性もあります。関節リウマチに限らず医療全体で今後ゲノムの情報が無視できなくなっていくのは間違いないでしょう。

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PROFILE

岡田 随象

東京医科歯科大学 テニュアトラック講師

岡田 随象

2005年東京大学医学部医学科卒業。2011年東京大学大学院医学系研究科内科学専攻 博士課程修了,博士(医学)取得。東京大学医学部附属病院 初期研修修了後、東京大学大学院医学系研究科、日本学術振興会 特別研究員 (DC2, PD)、日本学術振興会 海外特別研究員、Research Fellow, Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical Schoolなどを経て、2013年より 東京医科歯科大学 テニュアトラック講師として勤務。専門分野:遺伝統計学 バイオインフォマティクス 臨床免疫学

ホームページ:http://plaza.umin.ac.jp/~yokada/

 

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