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INTERVIEW

常磐病院/ナビタスクリニック

総合内科・血液内科

谷本 哲也

30年、40年と「谷本勉強会」を続けたい

年齢や所属組織、専門分野に関係なく多様な人々が集まり、医学論文を執筆している勉強会があります。谷本哲也先生が2012年から始めた「谷本勉強会」です。この勉強会の特徴は、参加者が日々、自ら勤める医療現場で起こったことや、社会のニュースで話題になっていることからテーマを拾い上げること。そこから生まれた多様な題材が、米国『NEJM(ニューイングランド医学誌)』や英国『ランセット』をはじめとした世界のレベルの専門誌に掲載されています。そんな谷本勉強会について、存分にお話しいただきました。

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地域からテーマを拾い上げる「谷本勉強会」

―現在、取り組まれていることについて教えていただけますか?

私は、東京都立川市にあるナビタスクリニック立川と、福島県いわき市にある常磐病院を行き来しながら、主に内科の外来診療を行っています。その傍ら、「谷本勉強会」というものを開いています。

谷本勉強会では、所属組織や専門分野にかかわらず、医学論文を書きたい人が集まり、日々の診療や社会の出来事からテーマを考え、論文執筆を進めています。両拠点でそれぞれ週1回ずつ、診療時間外に開催していて、参加者は十数名。学生、初期研修医から50代前後のベテラン医師、さらには看護師などのコメディカルも含め、幅広い参加者が集まっています。西日本や海外からも、SNSやSkypeを利用して参加している方々もいます。

―谷本勉強会について、どのように進めているのか詳しく教えていただけますか?

先端医療を行う大学病院などでは閉じたピラミッド型組織の中で、それなりの研究費や設備がないとできない大規模臨床試験や基礎研究といったトップダウン型の研究を行う事例が多いと思います。

一方、私たちは個人のフラットな繋がりを重視し、組織に頼らない開かれたネットワークを通じて、地域医療を実践しながら最先端の課題をボトムアップ型で見つけていく方法をとっています。見つけた課題について英語で執筆し、アメリカの『NEJM(ニューイングランド医学誌)』や『JAMA(米国医師会雑誌)』、イギリスの医学誌『ランセット』、科学誌『ネイチャー』などで、短い書簡形式を中心に世界レベルの専門誌でも発表しています。その他、原著や症例報告・写真、オピニオンなど論文の形式やテーマの種類はさまざまですが、2017年は半年ほどで既に20本以上を発表できるまでに成長してきました。

例えば最近では、2017年2月に立川市で、学校給食に出た「刻みのり」で集団食中毒になった事件がありましたよね。発症後にナビタスクリニック立川を受診された方も多数いました。その事件を受けて、「乾燥したのりでも食中毒が起こる」という論文を執筆したところ、イギリスの感染症専門誌に掲載されました。これは刻みのりによる集団食中毒発症が、初めて英語論文で報告された事例となりました。

また、日々のニュースを敏感にキャッチし、テーマにすることがあります。北朝鮮の金正男氏が殺害された事件を受けて、地下鉄サリン事件の経験を踏まえテロ事件にどう対処したらいいかを議論してまとめた論文は、マレーシアの医学雑誌に掲載されました。その他、難民の増加、カトリックと避妊、医療IT、といったテーマについて、イギリスやフィリピン、バングラデシュからの留学生と共同執筆してイランの医療政策専門誌に載ったこともあります。

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PROFILE

谷本 哲也

常磐病院/ナビタスクリニック

谷本 哲也

鳥取県米子市出身。1997年、九州大学医学部卒業、同大学第一内科入局。宮崎県立宮崎病院、国立がんセンター中央病院、松山赤十字病院、九州大学病院、鳥取大学病院で勤務。その後、2007年からPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の審査専門員。その後、ナビタスクリニック立川の内科医として外来診療を担当し、2011年からはときわ会常磐病院内科非常勤として勤務を始め、現在に至る。また2012年より谷本勉強会をスタート、その成果を『NEJM(ニューイングランド医学誌)』や『JAMA(米国医師会雑誌)』、『ランセット』、『ネイチャー』等で発表している。

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