coFFee doctors – ドクターズドクターズ

INTERVIEW

東京大学・政策研究大学院大学名誉教授/東海大学特別栄誉教授

内科

黒川 清

良い教育を受けたからこそ、教育での恩返し

2024年、挑戦する医師につながるサイト「coFFee doctors」は10周年を迎えます。多くの先生方のご協力があったからこその10周年。そしてこの間、社会の変化とともに、医師を取り巻く環境も大きく変化してきました。そこでこれまでの感謝も込めて、過去にインタビューさせていただいた先生方が現在、どういったことを考え、どのような活動に注力しているのか伺う企画「coFFeedoctors 10years」を始めます。

第1弾は、黒川清先生。これまでのご経験から、今の日本社会、大学に思うこと、そして若い人たちへの熱いメッセージを伺いました。

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◆「とにかく一度、日本を出てみる」

―現在の日本において、先生が関心を寄せていることについて教えてください。

私が一番心配しているのは若い人たちのことです。「今の環境に甘んじていては、将来ダメになるぞ」と伝えています。若い人、とりわけ大学生には「1年休学してもいいから、海外に行ってこい」と伝えたいですね。1年は長いと思うなら、夏休みの1カ月間でもいい。とにかく「個人の資格」で日本の外に出ることが重要です。

今の日本では「大学→新卒採用→就職」がまだまだ当たり前とされていて、新卒でないと採用に不利という風潮が残っています。そもそもこのような考え方や、海外に行くことで既定路線から外れてしまうのもナンセンスですし、問題だと思います。しかし、そういった風潮を心配するなら、なおさら大学生のうちに一度海外に出ておいたほうがいいと思います。

国はどこでもいいのです。大事なのは、どこの国に行ったとしても、国が違えば日本とは違った人がいることを感じること。そして育った環境や、文化、価値観も違う人たちと出会い、その違いを知ることです。そうすることで日本の良さも分かりますし、日本の変なところや問題点も分かってきます。そのような経験をすることで、健全な愛国心が生まれてきます。また「これがやりたい」「日本のここを何とかしないといけない」という明確な目標も見えてきます。

その過程で、失敗したっていい。現代は失敗が許容されない雰囲気が強いですが、「失敗は成功のもと」です。

―今の日本の問題点を、先生はどのように捉えていますか?

1989年にベルリンの壁が崩壊して冷戦が終結し、インターネット時代が始まります。1995年、Microsoft Windows95の発売で一般家庭から世界まで広くインターネットが普及し、皆がインターネットを使える時代になりました。そしてインターネット回線は、電話回線から光回線、Wi-Fiへと発展。インターネットの発展と比例して、世界の経済成長は、猛烈なスピードになっています。ところが日本は、1960〜70年代の高度経済成長期に急速な成長をしていたものの、1991〜93年のバブル崩壊後、目覚ましい成長はみられません。

1990年代以前は、冷戦という枠組みがあったからこそ「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言えたにすぎませんが、少し威張りすぎていたように思います。そして、今の猛烈な成長スピードについていけていません。

その根本的な原因は、新卒一括採用、終身雇用、年功序列といった制度による「タテ」社会にあります。「タテ」社会だから、おかしいと思っても自由に意見を言えず、問題を先送りにする。出世するためにごまをすり、権威にしがみついて忖度し、結果的に何も決められない人になっていく。大学の中も同じ構造です。これが大きな問題だと思っています。

「タテ」社会は今、少しずつ崩れ始めているものの、日本が抜本的に変わるのは、かなり難しいのではないでしょうか。だからこそ「タテ」社会に囚われず、「個人」の力で海外に出て、ユニークな友人たちと出会い、自らがやりたいことを見つけることが重要なのです。

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PROFILE

黒川 清

東京大学・政策研究大学院大学名誉教授/東海大学特別栄誉教授

黒川 清

東京大学医学部卒。1964〜84年在米。79年UCLA内科教授。89年東大内科教授、96年東海大医学部長。日本学術会議会長、総合科学技術会議議員(2003〜06年);内閣特別顧問(06〜08年)、WHOコミッショナー(05〜08年)、一般社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)代表理事・会長(13〜18年)、内閣官房健康・医療戦略室健康・医療戦略参与(13〜19年)、沖縄科学技術大学院大学(OIST)学園理事(11〜20年)等を歴任。国際科学者連合体の役員・委員を務め、国際腎臓学会理事長、国際内科学会議会長他。現在、野口英世アフリカ賞委員長、広島大学客員教授・特別顧問、成蹊大学名誉理事など。

2014年4月からはG8認知症サミット(2013年)で設立されたWorld Dementia Councilのメンバー、2021年7月からは副議長。2020年7月には西村経済再生担当大臣より依頼され、新型コロナウイルス対策の効果を検証するAIアドバイザリー・ボードの委員長に就任。国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会委員長(11年12月〜12年7月)。その功績によりForeign Policy ‘100 Top Thinkers 2012’,“2012 Scientific Freedom and Responsibility Award” of AAAS(American academy for the Advancement of Science)を受賞。

ブログ〈https://kiyoshikurokawa.com/

 

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