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遺伝子にプログラムされた「老化」を止める!?

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遺伝子の端に存在する「テロメア」は細胞分裂のたびに短くなりますが、それ以上短くなることができなくなると、細胞が分裂を停止し死に至ると考えられています。テロメアの短縮を抑えれば、寿命を延長できる可能性がありますが――。

 

「若いですね」と言われて嫌な人はきっといないでしょう。ヒトは「老い」や「死」を恐れ、健康に長生きして、できれば若いままの輝きを保ちたいと一度は願うはずです。たとえ若い男性でも、時がたてば次第に体力やパフォーマンスの衰えを実感するようになります。若い女性なら、肌のくすみ、しみや小じわが気になりますよね。

では、どうしたらこれら「老い」の兆候を抑え、若いままでいられるのでしょうか。

「老い」の原因は「プログラム説」と「障害蓄積説」(http://coffeedoctors.jp/news/793/)で説明されています。今回は、前者へのアプローチ、すなわち遺伝子にプログラムされた「老い」を止めることを考えてみましょう。

この「老い」のプログラムを抑制するメカニズムを、一般に垣間見ることができる現象が存在しています。それこそが、なんと「がん」なのです。

80~90%のがん細胞には、正常な細胞には存在しない「テロメラーゼ」という酵素が出現しています。テロメラーゼには、テロメアが短くなることを抑制し、安定化させる働きがあります。がん細胞がいつまでも死なず、無限に増殖できるのはこのためです。逆に、テロメラーゼを抑制する薬剤はがんを抑える可能性があります。

すなわち、テロメラーゼを活性化させるような治療法があれば、細胞の「老い」を抑えて、個体の寿命を延長できる可能性があるわけです。実際、一部の研究者たちはその可能性に期待を寄せています。しかし、テロメラーゼの活性化は細胞老化防止の可能性がある一方で、正常な細胞をがん化させ、かえって寿命を短くする可能性も考えられ、アンチエイジングへの応用については評価が定まっていないのが現状です。

同様の期待が寄せられている物質として、「レスベラトロール」が挙げられます。レスベラトロールは、近年の特定保健用食品(トクホ)の広まりとともに再び注目が集まっているポリフェノールの一種であり、赤ブドウの果皮やコケモモ、イタドリ、落花生といった食材に多く含まれます。

「フレンチパラドックス」という言葉をご存じでしょうか。フランス人は肉、チーズ、バターといった脂分を日常的に多く食しているにもかかわらず、他の欧州諸国に比べて動脈硬化を原因とした心臓病にかかりにくい、という矛盾を示した言葉です。

1992年、この矛盾を説明する推察として、フランス人が多く摂取している赤ワインに秘密が隠されている可能性が提言されました。いわゆる「赤ワインブーム」「ポリフェノールブーム」の始まりです。実は、この赤ワインの良き成分とされたものこそが、「レスベラトロール」なのです。

では、なぜレスベラトロールは「老い」を食い止める可能性があるのでしょうか。それは、「サーチュイン遺伝子」との関わりにあります。この遺伝子は、DNA全体を冬眠化させ、テロメアが短縮するのを抑える「長寿遺伝子」とも呼ばれる遺伝子であり、レスベラトロールがこの遺伝子を活性化すると報告されたのです。

しかし残念ながら、このレスベラトロールの効果はまだ定まっていません。一部ではその効果を否定する意見も出ていることから、今しばらく期待を寄せるには注意が必要になるようです。

このように、現代の医学では「プログラム説」に対するアンチエイジングのアプローチは、残念ながら限界がありそうです。

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医師プロフィール

宮山 友明 循環器内科

千葉大学医学部附属病院循環器内科
2004年 千葉大学医学部卒業後、国立国際医療研究センター、榊原記念病院で内科系研修と循環器専門研修を修了。2012年 千葉大学大学院で博士号取得。研究テーマは冠動脈疾患とカテーテル治療。患者に優しい細小カテーテルによる狭心症、心筋梗塞の低侵襲治療の施行をはじめ、高度救命救急センターで救命医として研鑽している。そのかたわら、未病への対処(予防医学)の重要性を感じ、アンチエイジング医学への挑戦やスポーツ医学の普及も行う。大学生や一般社会人への各種セミナーの催行、タレントやプロアスリートの健康管理も実践している。

宮山 友明
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