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フローな風が吹く 〜人生を悔いなく生きるために〜

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自分自身のパフォーマンスを決めているのは、自らの心の状態です。機嫌がよい状態でいることは、よいアイデアを思いついたり、人の話を素直に聴いたりすることにつながります。それだけではなく、人間関係を好転させたり、望む結果を手に入れたりすることにもつながるのではないでしょうか。

人には必ず心の状態が存在しています。時・場所を選ばずに、何らかの心の状態が存在しているのです。それはなぜかといえば、心の状態は脳がつくり出しているからに他なりません。死なない限り、すなわち生きている限り脳は働き続け、何らかの心の状態を生み出しています。みなさんが今こうしてお読みになっている間も脳が働いているので何らかの心の状態が存在しているはずです。

その心の状態を、わたしは大きく2つに分けて、「フローな状態」なのか「ノンフローな状態」なのか、というように表現しています。フローな心の状態については、チクセントミハイ博士が「無我夢中の状態」などと表現されています。それはスポーツやビジネス、音楽などにおいて、自分のパフォーマンスが最大限に発揮されている心の状態とも言えます。
 
スポーツの世界では、しばしば「ゾーンに入った状態」あるいは「ゾーン」と表現したりします。それはかなり究極な心の状態で、日常生活ではめったに起こるものではありません。そこで、わたしはそのような無我夢中よりももう少しライトで自然体な「あるがまま」に近い心の状態として「フローな状態」を考えています。すなわち、“揺らがず”“とらわれず”というような心の状態です。わかりやすく言えば「機嫌のよい状態」です。

人は機嫌が悪いときには、何かに揺らぎ、とらわれているはずです。多くの人はほとんど自覚していませんが、どんな人でも常に機嫌のよい感じと悪い感じが切り替わりながら日々生活しています。実はこの機嫌の状態こそが自分自身の機能を決めているのです。

人間には機械のようにさまざまな身体的機能が備わっていて、それは心の状態の影響を常に強く受けています。心の状態によって自分という言わば“マシーン”の機能は決まっているのです。

機嫌がよく、フローな風が心に吹いているとき(わたしは機嫌のよい状態をよくこう表現します)、自分自身がどうなっているのかを想像してみてください。機嫌の悪いときに比べて、機嫌がよいときの自分は元気で、物事にも集中しやすいため、仕事などのパフォーマンスも高いのではないでしょうか?

スポーツは、この差異がとてもわかりやすい活動です。機嫌が悪くなり自分の機能が落ちればいつものパフォーマンスが発揮できずに負けることになるからです。また日本では昔から「病は気から」と言われていて、日本人は悪い心の状態が病気にもつながることを経験的な知恵として知っているのです。
 
それは心の状態次第で、免疫機能をはじめとする生きるための身体的機能が活性化もするし、不活性化もするということ。例えば機嫌が悪い状態が長く続くと免疫機能が低下してしまうので感染症にかかりやすかったり、がんになりやすかったりすることになるのです。もちろん、運動などのライフスタイルやがんなどの病気はさまざまな因子の影響を受けていますが、心の状態が人間の身体的機能を通して大きく影響しているのは確かなのです。

そこで、自分の機能を上げて生きるために誰かに機嫌を取ってもらうのではなく、自分で自分の機嫌を取る、つまり自分の機能はしっかりと自分で上げて、1回しかない人生を悔いなく生きることを提案したいと思います。
 
機嫌のよい状態の方が人にやさしくなれるのではないでしょうか?
機嫌がよければ人の話も素直に聴けるのではないでしょうか?
機嫌のよい人のところに人は集まるのではないでしょうか?
機嫌がよければ多少のことがあっても人を許せるのではないでしょうか?

“揺らぎ”“とらわれ”ている状態、つまり機嫌の悪いときはその逆です。人間としての機能が落ちているからです。携帯電話の電波の状態が悪いときに電話がつながりにくいのと同じです。見えない心の状態や電波の状態が、その人のパフォーマンスや電話の機能を調整しているのです。

場所によって電波の状態が悪くなることもありますが、そのままの状態で通話していると伝達ミスやトラブルの元になるでしょう。同様に、人間ですから日々の生活の中で機嫌が悪くなることも当然ありますが、そのままの状態で放置するのはよくないのです。

自分の機嫌を自分から自分のために取ることが、人間関係を好転させる大切な法則なのです。自分の心の状態に常にフローな風を吹かせて生きること、それがみなさんへの大きなメッセージです。

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医師プロフィール

辻 秀一  スポーツドクター

エミネクロスメディカルクリニック
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。同大スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学び、1986年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。1991年NPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドを設立、代表理事に就任。2012年一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げた新リーグNBDLのチーム、東京エクセレンスの代表をつとめる。日本体育協会公認スポーツドクター、日本医師会公認スポーツドクター、日本医師会認定産業医

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