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「居眠りは怠け」というのはホント? ―童謡「うさぎとかめ」の新解釈

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ヒトは「寝て食べて出して初めて心身の活動のパフォーマンスが高まる昼行性の動物」です。睡眠時間をしっかりとることは重要ですが、「居眠りは怠けである」という概念が、どこかで刷り込まれていないでしょうか。それにより、睡眠時間を多く取ることへの抵抗が生じてしまっているかもしれません。

 

 童謡「うさぎとかめ」はご存知ですよね。

 作詞は石原 和三郎(1865-1922)、作曲は納所弁次郎(1865-1936)で明治34年に「幼年唱歌 二編上巻」上で発表されました。歌詞はイソップ童話「うさぎとかめ」に沿った内容です。あらためて詩を見ていただきます。

うさぎとかめ

もしもし かめよ かめさんよ  せかいのうちで おまえほど
あゆみの のろい ものはない  どうして そんなに のろいのか

なんと おっしゃる うさぎさん  そんなら おまえと かけくらべ
むこうの おやまの ふもとまで  どちらが さきに かけつくか

どんなに かめが いそいでも  どうせ ばんまで かかるだろ
ここらで ちょっと ひとねむり  グーグーグーグー グーグーグー

これは ねすぎた しくじった  ピョンピョンピョンピョン ピョンピョンピョン
あんまりおそい うさぎさん  さっきのじまんは どうしたの

なにしろ「唱歌」です。皆が歌い知っています。そのため内容は当然刷りこまれます。ではその内容はというと

 

1.かめはたゆまない努力を惜しまなかったので勝った
  これは勤勉のすすめです。

 

2.うさぎは油断し、怠けて、居眠りをしたから負けた
  これは油断大敵、あるいは居眠りは怠けの、刷りこみです。

 

でもこの解釈は正しいのでしょうか?よくよくみると詩ではこのレースはかめから持ちかけています。かめには勝算があったのではないでしょうか?そう思って考えてみましょう。まず

はこのレースの行われた時刻です。昼間のようです。

ところでかめは爬虫類、変温動物で、基本的に昼行性です。ですから夜のレースでは動けなくなる可能性が大です。一方のうさぎですが、「うさぎうさぎなにみてはねる、じゅうごやおつきさんみてはねる 」の歌詞で知られる文部省唱歌「うさぎ」からもわかるように、夜行性とまでは言えないまでも薄暮性です。ですからうさぎは昼寝をする習性があるのではないでしょうか?

つまり、かめは自分が変温動物で夜には動けないことを知り、相手のうさぎは昼寝をしがちであることを知った上で、レースを昼間に持ち込んだ、かめの作戦勝ちという解釈です。レースを昼間に持ち込んだ時点でかめの勝利は決まっていたのです。つまりはこのイソップ童話から得るべき教訓は「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」「情報戦が重要」と私は考えるのです。

そして日々睡眠の重要さを伝える私としては、殆どすべての日本人が知っている童謡「うさぎとかめ」で刷りこまれた「居眠りは怠け」の概念を突き崩すことの困難さを日々感じている今日この頃です。

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医師プロフィール

神山 潤 小児科


公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ浦安市川医療センター CEO(管理者) 
昭和56年東京医科歯科大学医学部卒、平成12年同大学大学院助教授(小児科)、平成16年東京北社会保険病院副院長、平成20年同院長、平成21年4月現職。公益社団法人地域医療振興協会理事、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本睡眠学会理事。主な著書「睡眠の生理と臨床」(診断と治療社)、「子どもの睡眠」(芽ばえ社)、「夜ふかしの脳科学」(中公ラクレ新書)、「ねむりのはなし」(共訳、福音館)、「ねむり学入門」(新曜社)、睡眠関連病態(監修、中山書店)、小児科Wisdom Books子どもの睡眠外来(中山書店)「四快(よんかい)のすすめ」(編、新曜社)、「赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド」(監修、かんき出版)、「イラストでわかる! 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド 」(監修、かんき出版)、「しらべよう!実行しよう!よいすいみん1-3」(監修、岩崎書店、こどもくらぶ編集)等。

神山 潤
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