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聴神経腫瘍の誤診を減らしたい

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年間10万人に1人の割合で発症すると言われている聴神経腫瘍。良性ではあるものの、大きくなると脳幹を圧迫して歩行障害や意識障害を招き、最悪の場合は死に至ります。この腫瘍は脳の底の部分(頭蓋底)に位置するため、手術をして取り除くためには高度な技術が必要です。頭蓋底手術を専門に、年間100件を超える症例をこなす東京医科大学病院脳神経外科主任教授である河野道宏先生に、聴神経腫瘍に関する課題や治療法を伺いました。

 

◆聴神経腫瘍の診断がつくまでに3年半かかる

聴神経腫瘍についての最大の課題は、診断がつくまでに平均して3年半もかかってしまっていることです(河野先生の手術患者のデータより)。聴神経腫瘍は良性の腫瘍ではありますが、患者さんが難聴などの症状に気づいてから、その原因が聴神経腫瘍と分かるまでに3年半もかかると、それだけ腫瘍が大きくなるので、聴神経以外の神経にも影響が及んだり、治療の難度も上がったりします。

正確な診断までに時間がかかる原因としては、聴神経腫瘍の患者さんが、初期症状の大半を占める難聴やめまい、耳鳴りといった症状を自覚して耳鼻咽喉科を受診したときに、その多くが「突発性難聴」と診断されてしまうことにあります。本来、ウイルス性難聴や血管障害による難聴を除外し、それでも診断がつかない場合に画像検査を行い聴神経腫瘍など全ての可能性を排除しても原因が分からないときに初めて突発性難聴という診断ができるのですが、現状では難聴やめまいで画像検査を行うことはあまり多くないため、正確な診断までに時間がかかってしまうのです。

◆一般の人へ正確な知識を発信する

それを解決するためにも医療機関側では、、ウイルス性でも血管障害に起因する難聴やめまいでない患者さんがいた場合、画像検査まで行うことを当たり前の環境にしていく必要があると感じています。聴神経腫瘍の検査にはMRIが必要になるため、医療機関側への大きな負担がありますし、全ての患者さんに対してMRI検査を実施すべきというわけではありませんが、現在、画像診断専門のクリニックも増えてきているので、そのようなクリニックとの連携で解決できるのではと思っています。

また私個人としては、聴神経腫瘍と診断がつくまでの期間を少しでも短くするために、一般の方々に対して、難聴や耳鳴りが起こった時に、「もしや」と考えられる可能性の一つに聴神経腫瘍が頭に浮かべられるように、正確な知識を発信するようにしています。私たち脳神経外科医は、診断が決まった患者さんが訪れてくれることで初めて治療ができます。自分たちから聴神経腫瘍の患者さんを見つけ出しに行くということはなかなか難しいので、せめて正しい情報を提供したいと考えています。

年間100件を超える聴神経腫瘍の手術を行っていることで、メディアからの取材も増えてきました。そのような場で、少しずつではありますが「めまいや耳鳴りの原因は、聴神経腫瘍の可能性も否定できない」ということや「血管障害が起こりにくい若い世代であれば、画像検査も受けた方がいい」ということを発信することが、今できる最善の方法だと考えています。

患者さん側もインターネットの普及で自分の症状について調べられるようになったため、医療知識が高まっていることを感じています。メディアを通して自分のめまいや耳鳴りが「もしかしたら…」と気付けるきっかけとしてもらうことが、診断に3年半かかってしまうことの解決の糸口の一つではないでしょうか。

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医師プロフィール

河野 道宏 脳神経外科

東京医科大学脳神経外科学分野主任教授、東京医科大学病院脳卒中センター長
1987年国立浜松医科大学医学部卒業。東京大学脳神経外科に入局。国立病院医療センター (現・国立国際医療研究センター)、東京大学医学部附属病院、富士脳障害研究所附属病院などで研鑚を積む。95年4月富士脳障害研究所附属病院脳神経外科部長就任。2004年6月に東京警察病院脳神経外科部長、07年に脳卒中センター長を兼務。2013年より現職。

河野 道宏
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