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よりよい在宅生活を支援するためにできること(2)

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在宅医療を実践する中級者向けに、在宅医療の質や効率を高めること、在宅医療に取り組む仲間とつながることを目的として開催されたイベント「今すぐ役立つ在宅医療未来道場」。2日間に渡り、6コース7つのプログラムが開かれ、約140名が参加しました。今回は、医療者コースのプログラムのうち、永井康徳先生(医療法人ゆうの森たんぽぽクリニック理事長)、市橋亮一先生(医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック 代表)の講演とワークショップの様子をお伝えします。

最初は、医療法人ゆうの森たんぽぽクリニック理事長である永井康徳先生による、「在宅診療における理念の共有の重要性」についてです。

◆在宅医療の理念を共有する ―なぜ理念は必要なのか

「質の高い在宅医療を行う上では、『理念の共有』『疲弊しないシステム』『マンパワー(人材の育成)』の3つが必要です。『常に患者さん本位で仕事をしていますか?』と訊ねると、多くの医療従事者は当たり前と答えるでしょう。ところが、とてつもなく多忙な時に、『自分たちの業務を優先してませんか?』と聞くと、多くの方はうつむいてしまいます」

そんな多忙な中で、患者さんやご家族の意思を尊重した質の高い在宅医療を行うためには、スタッフ間での患者情報の共有と、加えて、方針の統一が重要となり、そのために理念の共有が必要なのだと、永井先生はおっしゃっていました。

しかし、理念の共有が重要とは分かっていても、なかなかスタッフ全員の共通理解に至らない場合もあるでしょう。そのため今回のワークショップでは「職員みなで理念を共有し、同じ方向性で支援をしていくためにはどうしたらいいか」をテーマに話し合いました。

プログラム開催前に、以下の質問内容で事前アンケートがとられていました。

1) 情報共有と方針の統一を行うにあたり、職場でどのような工夫をしているか

2) 職員が患者本位、利用者本位を貫くためにどのような工夫をしているか

3) また今後どのように工夫したいか

4) 理念を共有するために職場でどのような工夫をしているか

5) また今後どのような工夫をしたいか

アンケート結果をもとにグループで話し合い、各チームで発表しました。

理念の共有方法としては

■トップが理念についてしっかり語る時間をつくる、トップが理念を実行して背中でみせる。
■トップだけでなく、中間の者が若手に理念を伝えていく
■採用時に、理念を共有できる人を雇用する
■理念を現場に落とし込むために、疲弊しない環境づくりをする
■理念に具体性を持たせるために、具体的事例に落とし込んで共有する場をつくる

などが挙げられていました。
また、理念が実行できているかを評価する方法として

■理念が実行できているかフィードバックし、評価する場をつくる。その際に、言いやすい雰囲気づくりをすることも必要
■院内のみではなく、患者さんや地域の方々など外部からの目線も入れたフィードバックができる場をつくる
■理念を実行できている人をきちんと評価するシステムをつくる

などの意見が挙げられました。

永井先生写真2-1

ワークショップの最後に、永井先生が理事長を務める医療法人社団ゆうの森での取り組みが紹介されました。

医療法人ゆうの森では『クレド』という方針書を作成していて、法人としての想いを可視化させ、迷った時に立ち返れることができる場を作っているそうです。また毎年、理念を見直すために幹部が集まり、5年・10年後の将来を語り合う「ビジョン合宿」を行っているとのことでした。さらに、個別面談で個々のさまざまな想いを吸い上げ、時には全体で共有し、理念に添った行動ができているスタッフを評価する体制をとっているとおっしゃっていました。

≫次ページ:看取りのとき、私たちには何ができるのか?

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医師プロフィール

永井 康徳 在宅診療医

医療法人ゆうの森理事長/たんぽぽ俵津診療所院長
愛媛大学医学卒業。僻地での国保診療所勤務後、愛媛県松山市で在宅医療専門クリニックを職員3人で開業。現在は職員90人で、情報の共有と方針の統一を図り、患者本位の多職種チームで患者を診ることを基本理念とする。平成22年には、市町村合併の余波で廃止となった人口約1200人の町の市立のへき地診療所を民営化し、運営。松山市で約470人、西予市明浜町で約60人の在宅患者をマネジメントする。平成28年からは、在宅患者のための在宅療養支援病床「たんぽぽのおうち」を開設。
また、全国在宅療養支援診療所連絡会理事、日本在宅医学会理事、NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク理事を務める。

永井 康徳
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