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誤嚥性肺炎・摂食嚥下の正しい知識を普及させたい

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医師4年目の松本朋弘先生は、歯科医師として5年活動したのち医学部に入学、現在は総合診療科の後期研修2年目です。1年程前から医科歯科ダブルライセンスの持ち主である自分の使命を見出し、活動を始めています。なぜ歯科と医科のライセンスを取得したのか、どんな取り組みを始めたのかについて伺いました。

◆誤嚥性肺炎・摂食嚥下障害の正確な知識が普及していない

―現在、取り組んでいることを教えていただけますか?

後期研修1年目の中盤から、誤嚥性肺炎の治療や摂食嚥下障害に対する取り組みの啓蒙・普及活動が自分の使命だと感じ、徐々に取り組み始めています。

―背景にはどのような課題感があるのですか?

現在私は総合診療科の後期研修2年目ですが、総合診療科には誤嚥性肺炎の患者さんが大勢います。多くの場合、誤嚥性肺炎の治療は、絶食のうえ抗菌薬を投薬し、熱が下がったら退院。ところがこの治療では、退院後しばらくしたら再び誤嚥性肺炎を起こして入院する方が非常に多いのです。そして患者さんは、最後には口から食べられなくなってしまう。医療者は、いくら誤嚥性肺炎の治療をしても、その先にある結果が分かっているので、熱心に治療に取り組む方は少ないです。そのような治療を不毛に感じていました。

また、特に認知症などが進んでいない患者さんだと、1日絶食するだけで確実に空腹を感じます。そのため、患者さんに「窒息するから食べないでください」と言って絶食させることに倫理的な問題もあると感じていました。

違うアプローチはないのかと探している時に、「NPO法人口から食べる幸せを守る会」理事長である看護師の小山珠美先生に出会い、衝撃を受けました。衝撃の1つは、広く行われている治療の際の絶食には、実はエビデンスはないこと。そしてむしろ、食事を止めることで口と喉を使わなくなり、食事に関わる筋肉が1日当たり3~7%落ちて廃用が進むのです。つまり5日間絶食させて誤嚥性肺炎の治療を行うと、15~35%も筋力が落ちてしまうのです。そんな状態では食べられるわけがありません。だから、早期の経口摂取開始が治療やその患者さんの予後に直結するというのです。

今まで行われていた誤嚥性肺炎の治療には根拠がないことに驚き、「誤嚥性肺炎治療、摂食嚥下障害に対する取り組みは自分の使命だ」と感じたのです。

―具体的には現在、どのような活動を始めていますか?

最初に始めたのは、小山さんに当院でも誤嚥性肺炎の治療や摂食嚥下障害についてのワークショップを開いてもらったこと。過去2回開催し、当院の母体であるjadecom全体でのワークショップを開催しました。JADECOMは全国に病院がありますが、医療資源が少ない地域ほど誤嚥性肺炎が増え、医療者は困っています。また医師の視点を多く取り入れたワークショップも小規模ながら開催しています。

また、病院だけが頑張っていても意味がありません。なぜなら、病院で治療し食べられるようになって退院させても、食べさせられない環境があるからです。摂食嚥下障害のある患者さんを積極的に受け入れてくれる在宅診療所、訪問看護ステーション、リハビリテーション病院、療養施設があまりありません。

しかしそれには理由があって、例えば座り方1つで食べる量が変わったり、覚醒していないと食事へ反応が悪いことだったり、知識がないと分からないことを知らないために食べさせられない環境ができてしまっています。だからこそ地域に対しても、知識の啓蒙が必要なのです。そこで当院のある練馬区の医師会を中心に、リハビリ職、介護職、管理栄養士、訪問看護師、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、ケアマネージャーなどの多職種と練馬区摂食嚥下研究会を設立。年に4回小山先生や歯科医師の先生を招いて、講演会ならびに研究科内での持ち回りの勉強会を開催しています。

あとは視野を広げてみると、実は、練馬区の歯科医師会は摂食嚥下障害予防のために予算を割いて積極的に取り組んでいるんですね。歯科医師会の診療所では週2日、摂食嚥下外来を開いて、摂食嚥下障害のスクリーニングとフォローアップを歯科医師会の予算を使って行っているんです。でも医師側はこのことを知りません。

そこで現在、自分の担当患者さんや当院総合内科の患者さんで誤嚥性肺炎の治療をした方に対して、退院後、歯科医師会の摂食嚥下フォローアップを入れる取り組みを始めました。

練馬区は23区内で急性期病院、リハビリテーション病院が極端に少なく、医科と歯科の連携が重要ですし、せっかく良い取り組みがなされているので、練馬区で医科歯科連携の前例をつくっていきたいと考えています。

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医師プロフィール

松本 朋弘 後期研修医

東京都出身。2006年神奈川歯科大学を卒業。鶴見大学歯学部付属病院にて研修、同大学大学院(口腔外科学専攻)に進学し、産業技術総合研究所の組織再生工学グループ(再生医療研究)にて研究に携わる。2011年東海大学医学部に編入、同大学を2016年3月に卒業。学内に臨床医学勉強会を創部。在学中にコペンハーゲン大学、ジョージワシントン大学に短期留学。医学部在学中も慶應義塾大学医学研究科(細胞組織学研究室)にて非常勤研究員。練馬光が丘病院にて初期研修を修了し、現在は同病院総合診療科にて後期研修中。栄養サポートチーム、医療安全管理委員会に参画し、病院運営をサポート。2017年 NHK 「総合診療医ドクター G」に研修医として出演。2017年 アメリカ内科学会(American College of Physicians: ACP)日本支部 チーム対抗クイズ大会 『Dr’s Dilemma』優勝チームメンバー。

松本 朋弘
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