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社会と健康の関連を扱う学問、社会疫学とは[1]

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記事

社会と健康の関連を明らかにする学問、「社会疫学」。日本ではまだなじみが薄いこの分野へと向かわせたものは、多忙な救急病院に勤務する中で経験した出来事だった――。

 

こんにちは。私は、米国マサチューセッツ州ボストン市にあるハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health:HSPH)というところで研究を行っている日本の医師です。

私の専門は「社会疫学」という学問分野です。これを読んでくださっている方で、社会疫学という言葉を聞いたことがある方は少ないのではないかと思いますが、簡潔に説明すると「社会と健康の関連を明らかにする学問」といえます。

ここでいう「社会」はかなり広い意味です。収入・学歴・職種などの個人的な社会経済状況や人々とのつながりなども含まれますし、「格差の大きな社会」「つながりの強い社会」など、個人が所属する地域の特性も含まれます。 

私は多忙な救急病院に勤務していた臨床医としての経験から、社会と健康の関連に関心を持ちました。社会疫学は、日本ではまだまだ広まっていない学問ですが、この学問の知見は医師や研究者にとどまらず、誰にとっても大切なのではないかと思います。

医師である私が、社会疫学の研究をするに至った経緯をご紹介することで、社会疫学に興味を持ってくださる人が1人でも増えれば幸いです。

私は、大学を卒業後、無事に医師国家試験に合格し、札幌の病院で働いていました。ほとんどの新人医師は大学卒業後に2年間の初期研修を行います。私も2年初期研修を行い、その後も更なる修練のために同じ病院で研鑽を積んでいました。

その病院では、自殺もしくは自殺未遂(以下、自殺)の方を診察させていただく機会がしばしばありましたが、3年目の初めの救急部での勤務の間は、自殺された方を診ない日はないといってもいいほどでした。社会のことをあまりわかっていなかった私は、自殺がこれほどまでに多いものかと、大きなショックを受けました。

そのような方々を診察し、患者さんやご家族から、なぜこのようなことに至ったのかを繰り返し聞くうちに、私はある一つの思いを抱くようになりました。「自殺された方のほとんどが、社会・経済的にとても厳しい状況にあるのではないか」

「社会・経済的にとても厳しい状況」をより具体的にいえば、失業、借金、離婚、信頼していた人に裏切られた等です。いくつかが累積している方も多くいました。それは辛いですね……と思うことばかりで、かける言葉を見つけることができませんでした。

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医師プロフィール

坪谷 透 公衆衛生学

新潟県三条市出身。東北大学医学部卒業後、手稲渓仁会病院にて内科研修。東北大学大学院修了(博士(医学))し、東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野 研究助教。現在、Harvard School of Public Healthにて社会疫学の研究を行っている。
http://researchmap.jp/tsubo828/

坪谷 透
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