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プライマリ・ケアとは? 〜地域を健康にするために〜

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「地域を健康にする」ために、医療者はさまざまな形で健康に関わっています。病院や診療所で行う診療以外にも、しなければならないことがたくさんあるのです。

最近、総合診療や家庭医療という言葉を少しずつ耳にするようになってきたかもしれません。ひと昔前は、「プライマリ・ヘルス・ケア」という言葉が使われることが多かったのではないでしょうか。

 

「プライマリ・ヘルス・ケア」とは1978年に初めて提唱された概念で、一言で言うと「すべての人に健康を」という意味です。これを実現するために、世界保健機関(WHO)は5つの原則を定めています。(1)住民のニーズに基づく方策、(2)地域資源の有効活用、(3)住民参加、(4)他のセクター(農業、教育、通信、建設、水など)との強調、統合、(5)適正技術の使用の5つです。これを読んで、あら、医療の話ではない?と感じた方もいるかもしれません(笑)。

 

健康と医療はとても近い概念のように感じますが、実は火と油のような存在でもあります。「健康でなくなったから」来る場所が「医療」の現場である病院や診療所であり、「健康」な人は健康診断や予防接種以外にはほとんど来ない場所です。かくいう私も医師ですが、なるべく利用したくない場所ナンバーワンが「病院」です。

 

「健康」に対して医療者がどのように関わるのかを考える際には、とても幅広い分野が関連してきます。医療者は病院や診療所で白衣を着て働いていることだけが仕事ではありません。「地域を健康にする」ためには、四六時中やらなければならないことがたくさんあります。

 

医療者として一体何をしているのかを説明するのに、とても大切な一枚の図をご紹介します。

 

挿入図(長嶺先生)

 

ひと月に1000人の住民がいたとすると、そのうちの750名が咳や鼻水など何らかの症状を訴えるといわれています。その中で病院にかからないで治す人が3分の2にあたる500名。病院か診療所を受診する人が3分の1の250名です。その中からその月に入院をする人は0.9%にあたる9名。大学病院へ紹介される必要のある人に至っては、0.1%に過ぎません。

 

プライマリ・ヘルス・ケアの領域では、医療者はこの1人を見逃さないための分野横断的な医学的知識・診断能力を磨き、病院に来ない750名やひいては1000名が「健康」を害さないようにするため、あの手この手でさまざまなアプローチを行います。一人一人の患者さんを診ることはもちろん、「予防」「診断」「治療」「ケア」の全てをさまざまな人たちと協力しながら行うのです。

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医師プロフィール

長嶺 由衣子 総合診療医

2005年一橋大学社会学部(政治学、医療人類学)卒業/長崎大学医学部3年次学士編入学、2009年長崎大学医学部卒業/沖縄県立中部病院プライマリ・ケアコース(離島医師養成コース)、2012年沖縄県立南部医療センター・こども医療センター附属/粟国診療所所長、2014年千葉大学予防医学センター特任研究員

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