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INTERVIEW

株式会社T-ICU

麻酔科

中西 智之

遠隔集中治療を通じて、ICUの専門医不足を解消する

フリーランスの麻酔科医として、集中治療専門医がいない病院で数多くの集中治療室(ICU)での治療を経験し、専門医不足を痛感した中西智之先生。その解決法として「遠隔集中治療」があることを知り、2016年10月に、日本初の「遠隔集中治療」を提供する会社を設立しました。どのような思いで、どのような取り組みを行っているのでしょうか、今後の展望も含めて伺いました。

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事業として遠隔集中治療を提供

―今、取り組んでいることを教えてください。

私は、救急科専門医や集中治療専門医の仲間とともに「T-ICU」という会社を立ち上げました。医療機関に対して、遠隔集中治療を中心とした専門医チームによる集中治療支援のソリューションを提供しています。例えば、全国にあるICUを備えた病院の中には、集中治療専門医ではない医師が患者さんを診ているケースがたくさんあります。そこで、T-ICUの集中治療専門医が24時間体制で遠隔モニタリングし、早い段階に的確な治療方針をアドバイスすることで、重症の患者さんを早期回復へと導くとともに、現場の医師・看護師の負担軽減を図ることができます。

そのほかには、医師や看護師の教育なども行っています。私たちが遠隔で集中治療のサポートをしても、その病院に核となる集中治療医が不在では、集中治療の最新知識・技術に詳しくなく、遠隔の指示ができないケースがよくあります。例えば「最新のエビデンスではこうなっているから、こういう治療をしてほしい」という指示にも、そのことを知らないために対応できず、適切な治療が行えないことがあります。看護師に対しても同様のことが言えます。遠隔集中治療を導入するためには「医師や看護師の敎育」が欠かせません。

また遠隔集中治療を行うと治療成績も向上しやすいので、看護師にとっては集中治療に携わることがモチベーションアップにつながり、ひいては看護師の定着率向上や、病院の安定経営にも貢献できると考えています。

―現在の進捗状況について教えていただけますか?

遠隔集中治療を行うためのシステムが完成したので、今は導入してもらえる医療機関を探しています。これまで静岡県や大阪府の病院にも伺いましたし、今度は岩手県でも説明させてもらうことになっています。直近で契約が決まりそうなのは千葉県にある病院です。先週見積もりを提出したので、決まれば5月くらいからシステムを導入できる予定です。

今は人づてなどでT-ICUのことを知り、ご連絡をいただくことが多いです。要望などがあれば、全国どこへでも行きます。また今後契約する病院を増やしていくために、私たちのシステムを導入して診療成績がどのくらい改善されたというデータもしっかり収集して、学会などでも発表していきたいと考えています。

―集中治療の現場で感じた課題はどのようなことですか?

病院に遠隔集中治療サービスを提供して、病院から契約料をいただくビジネスモデルを考えています。しかし、それでは病院側には目に見える収益アップにはなりません。遠隔診療に特別な診療報酬がつくわけではないので、どうしても出費が増えてしまいます。そのような現状なので、なかなか導入に踏み切れない病院も多いようです。

本来、遠隔集中治療を導入することで、たとえば死亡率が低くなる、ICUの滞在日数や人工呼吸器の装着日数などが短くなるなどで診療成績がよくなるとされています。患者さんは良質な治療を受けられて、集中治療をしなければならない専門医以外の医師はストレスが軽減できます。病院にとっても、患者さんの滞在日数が減るので病床回転率が上がるなどのメリットがあります。しかし、お金の問題や、現状でもなんとか対応できていることもあり、なかなか導入に至っていないケースもあります。

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PROFILE

中西 智之

株式会社T-ICU

中西 智之

株式会社T-ICU代表取締役
2001年京都府立医科大学医学部卒業。同大学外科学講座にて研修後、熊本赤十字病院にて心臓血管外科の研鑽を積む。その後、横浜市立大学麻酔科に入局。麻酔科や救急・集中治療を経て、2016年10月に株式会社T-ICUを設立。現在に至る。

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