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誰も教えてくれない「ストレスチェック制度」7つの真実

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12月よりストレスチェック制度が義務化されます。しかし、各企業での取り組み方などについては、まだ不明な点が多いのが実情です。また、過度な期待は禁物です。その7つの理由とは?

ストレスチェック制度には、多くの関係者からさまざまな希望や期待が寄せられています。会社側は「メンタルヘルス不調者の減少につながるのではないか」、社員側は「自分の会社がメンタルヘルス対策にもっとまじめに取り組んでくれるだろう」と考えているのです。

ストレスチェック制度を実施することは大切ですが、過度な期待はできません。それはなぜでしょうか? 7つの理由を挙げてみます。

 

1.まだ、いろいろなことが決まっていない、わかっていない

2014年6月の労働安全衛生法改正からはじまり、2015年4月にはストレスチェック制度指針が発表され、その後も、マニュアルやQ&Aが厚生労働省から出されています。次第に現場レベルの声を反映した実践的な内容になってきていると感じますが、いまだに決まっていないことも多くあります。未解決課題の多くは、最終的には、会社ごとに衛生委員会で決定するように、となりそうですが、まだ決まっていないこと、わかっていないことが多いのが実情です。

2.厚生労働省も認めるところ、信頼できるエビデンスはない

ストレスチェックテストの実施にあたり期待されているのは、特定の組織に任意の質問を行い、フォローすることによって、その集団のうつ病患者数が減る、メンタルヘルス不調者が減るという結果です。しかしながら、そのような研究発表で信頼性、再現性のあるものは、国内外を探しても今のところまだありません。「ストレス調査」の報告は数多くありますが、いずれもサンプル数が少なかったり、科学的根拠が乏しかったりするものばかりで、専門性の高い学会誌に載っているものではありません。その点は注意が必要です。

ストレスチェック制度により、メンタルヘルス不調者が減るにこしたことはありませんが、実施すれば必ずメンタルヘルス不調者が減ると考えるのは間違いです。今回のストレスチェック制度をどのように活用すればメンタルヘルス不調者を減らすことができるかを考えることも大切です。

3.病気の診断検査ではない

ストレスチェックテストは、からだの健康診断で用いられるような血液検査や画像診断とは異なります。また、うつ病等の精神的疾患の有無やその程度を調べるための検査・心理テストでもありません。ストレスチェックテストの判定基準はあいまいで、ストレスチェックテストを実施する実施者により結果に違いが生じる可能性もあります。また、異なる質問票を使ってテストを行った場合では、その結果を比較できない可能性が高いことも指摘しておきます。

4.同じ人でも、結果は安定しない

ストレスの感じ方は、日々変化します。同じ人でも、時期や曜日、前日やその日の朝に起こった出来事などによってストレスの度合いは異なります。そのため、同じ人でも、異なるタイミングでストレスチェックテストを受検すれば、判定も異なる可能性があるのです。だとすれば、どのような状態で受検したストレスチェックテストの結果が、その人の「平均的な」「日常的な」ストレス度合いを反映するのでしょうか。それは誰にもわかりません。

5.受検者が本音を答えているとは限らない

ストレスチェックテストを受検する人は、そもそも本当に正直に質問に答えているのでしょうか。ストレスチェックテストの質問は、どう答えればストレスが高いと判定されそうか、すぐにわかるような内容です。たとえ自分がストレスを抱えていても、会社にその事実を隠したいと考えた受検者は、ストレスがないと判定されるように答えるでしょう。逆に、高ストレス者となって、面接指導の結果就業制限をかけてほしいと考える受検者は、ストレスを抱えているという答えを選択しがちになるでしょう。

それ以上に、そもそも高ストレス者は、面接指導を受けたいと手を上げてくれるのでしょうか。このような意味では、ストレスチェック制度は、会社の信用が試されているのかもしれません。まさに、会社の信頼度テストとも言えそうです。

6.過度な期待はしない、できない

ここまで述べてきた理由により、ストレスチェック制度を始めたからといって、会社のメンタル休職者が激減するわけではありませんし、そのような期待はできません。もちろん、ストレスチェック制度の開始により、多くの企業に何らかのメンタルヘルス対策が導入されるわけですから、職場のストレスの減少、メンタルヘルス不調者・休職者の減少は期待されます。ただし、過度な期待は禁物です。本当の効果は、まだわかりません。

7.メンタルヘルス対策は、ストレスチェック制度だけではない

企業に求められているメンタルヘルス対策は、一次予防としてのセルフケア、二次予防としてのメンタルヘルス不調者等への対応、三次予防としての休職者の復職と復職後のフォローという3段階があります。この中で、今回のストレスチェック制度は一次予防の部分にあたります。ですので、その後の二次予防、三次予防もしっかりとやらなければ、メンタルヘルス対策体制を整えているとは言えません。ストレスチェック制度に気をとられて、他の予防がおろそかになっていては意味がないのです。一次予防から三次予防まで、すべてに対応することが大切です。

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医師プロフィール

武神 健之 産業医

一般社団法人 日本ストレスチェック協会 代表理事
1998年 神戸大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院、キッコーマン総合病院等に勤務。東京大学医学部大学院在籍中の2005年に有限会社ジーエムシーを設立し様々な企業の産業医を新規立ち上げから請け負う。年間約1000人の産業医面談を行ってきた経験から、2014年に不安とストレスに悩まない技術を広めることを理念として一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、現在に至る。

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