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再生医療〔2〕 皮下脂肪の有効活用! 脂肪由来幹細胞はどのように使われている?

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皮下脂肪から、骨や軟骨、皮膚や筋肉になりうる幹細胞が取れることが2000年初めに分かり、現在はさまざまな領域で応用されてきています。水野博司先生にその具体的な応用例を教えていただきました。

-現在、脂肪由来幹細胞はどのような分野で使われているのでしょうか。

現時点で臨床に応用されているのは、まず、乳がんの治療をした女性の乳房再建や、美容目的の豊胸手術などがあります。これが一番身近なところではないでしょうか。

あるいは、糖尿病や血管障害による傷の潰瘍ができてしまった場合や、放射線治療で皮膚に潰瘍ができてしまった場合にも有効です。特に放射線治療による潰瘍は通常治りにくいです。なぜなら、皮膚が砂漠のような状態になってしまっているからです。放射線が当たった部分は、細胞が全て死滅してしまっていて、血管も入りませんから治りようがないのです。

しかし、その潰瘍周辺や潰瘍の深部に脂肪由来幹細胞を注射すると、徐々に肉が出てくるのです。幹細胞が血管を誘導するような物質を出して、周りから血管を引き、それによって砂漠状態だった皮膚が血液で潤って、肉が盛り上がってくるのです。

―それ以外の分野ではどのように利用されているのですか。

それ以外には、消化器外科の領域でも応用されています。クローン病が進行し消化管に瘻孔(ろうこう)ができた方の穴をふさぐために使われています。

また、産婦人科領域でガンを切除した際に、膣と膀胱がつながってしまったり、膣に穴が開いてしまったりした場合も、膀胱周辺に幹細胞を打つことでふさぐことができます。日本ではまだ少数ですが、欧米では数百から数千人の患者さんが受けています。

さらには、泌尿器科領域の腹圧性尿失禁の患者さんに対して、膀胱から尿道でつながっているあたりに細胞を打つことで、尿失禁の治療に使われることもあります。まだ研究段階の治療で、保険診療というわけにはいきませんがね。

この様に、脂肪由来幹細胞は様々な分野で使われています。

―脂肪由来幹細胞の今後の可能性について教えてください。

まだ日本では行われていませんが、フィンランドでは骨の再生にも応用されています。口腔外科領域でのガンで顎の一部を取ってしまった患者さんに対して、幹細胞で治療をするのです。従来ですと、足の骨や腰骨の一部を取ってきて埋める手術をしていました。それを幹細胞で治すわけです。

まず、アパタイトというカルシウムのブロックを使うのですが、それにはハチの巣上に穴が開いているんですね。その穴に幹細胞と細胞の餌になるような特殊なたんぱく質を埋めて形を作ります。このまま移植してもバラバラになってしまうので、これをいったんおなかの筋肉の中に埋めるのです。筋肉は非常に血流が豊富なんです。その中で数カ月置いておくことで血液が十分に行き渡り、骨としての組織が出来上がります。そのタイミングを見計らって筋肉の中から取り出し移植します。

これは非常にいい成績が出ています。患者さんの中には、なんと再生した骨にインプラントを入れている方がいらっしゃるくらいです。ちゃんとそしゃくすることに耐えられるくらいの丈夫な骨になるんですね。患者さんの足などの骨を移植したら、そんなことはできません。

脂肪吸引という比較的患者さんの負担の少ない方法で幹細胞を取り出すことができて、それで例えばそしゃくに耐えられるだけの強度を持った骨を再生できる。このような医療が定着すれば、より患者さんへの負担が少なく満足度の高い治療を提供できます。骨の再生能力に関しては私たちの研究室でもいい結果が出ていますので、将来的には臨床応用をしたいと思っています。

(聞き手 / 北森 悦)

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医師プロフィール

水野 博司 形成外科

順天堂大学医学部形成外科学講座教授。
防衛医科大学卒。防衛医大病院、硫黄島医務官、横須賀海自医務室、呉司令部医務衛生幕僚、米国UCLA形成外科、自衛隊舞鶴病院に勤務の後に退官。日本医科大学形成外科を経て2010年より現職

水野 博司
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