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チャレンジングな研究に研究費を!

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研究者が研究を続けていくうえでもっとも重要なのが、国から支給される研究費です。多くの研究者は研究費を得るための事務作業に追われ疲弊しているという現実があります。ご自身も苦労をしていると話される武部貴則先生に、日本の研究費の在り方についてお話いただきました。

―先生が研究をしていて感じる課題は何ですか?

日本では研究費の分配のされ方が、若手研究者のモチベーションを落としていると感じることです。日本の場合、研究費を得ようとすると最初からマイルストーンを設定する必要があったり、進捗管理を毎月行わなければならなかったりと、細かい規定が多いのです。

僕は、研究職とはクリエイティブな仕事だと考えています。そのため、最初からマイルストーンを設定できるような研究だけでなく、不確定な部分が多く、意外なところから重要なテーマが発掘されるような研究にこそ研究費をかける必要があると思うのです。これを見逃さない力・目、そして実行力を持つ研究者を見極めサポートするものがあれば良いのではと思います。

再生医療の研究ひとつ見ても、日本と米国、欧州で研究費をあてるところが違います。日本は主に臨床応用分野に力を入れており、治療技術を上げるための研究に予算を集中させる傾向があります。一方、米国は疾患のモデルをiPS細胞でつくり、薬の開発につなげるなどの創薬研究などが重要視されており、そこに研究費が多く出ています。また、欧州はもっと学術的な疑問を探求する、いわゆるサイエンスと呼ばれる分野に研究費を出すというイメージです。この3つの場所を比べただけでも研究費の使われ方が違うのです。

移植や治療を重視し、そこに研究費を集中させることはもちろん大切です。そこからさらに日本の研究分野を発展させるためには、もう少し多様性を持った投資もあっていいのではないかと個人的には考えます。研究費を、若手研究者や新規の技術開発を行っているところに分配することで、より新しい発見があるかもしれません。

僕自身も不確定な要素を含む研究を遂行しているため、研究費を得ることに苦労をしています。若手の、クリエイティビティが高い時期に、このような制約が多い研究の仕方をしていると、日本人の若手研究者はやる気をなくして海外に流出してしまうのではないかと感じます。そのため、最適な配分や支援体制をもっと考える必要があると感じています。

―どのように解決できると考えますか?

国にそのような多様性を持ってもらえるのが一番ですが、国家レベルのことはなかなかすぐに変えられないと思うので、研究者自身での努力も必要になってくると思います。僕自身も今行っている再生医療という分野にこだわらず、違うアプローチで起業などをしてそこから資金を生み出せるようにしていこうと考えています。

近年、小口の予算でできる研究開発であれば、クラウドファンディングで資金を集める人も増えています。そういった手段の活用や、研究機関が3-5年の短い期間で若手研究者を試験的に雇用し、その研究が成功すれば起業できるなどの取り組みがあってもいいと思います。

国の研究費だけに頼らず、そういったプロジェクトで成功する若手研究者が増えれば、「日本で研究を頑張ろうかな」と思う人が増えたりするのではないかと考えています。

純粋な研究者というのは減ってしまうかもしれませんが、今後、ビジネスやITなどと連携した新しい形の研究者が増えてくると、より研究の世界も面白くなるのではないかと思います。

(聞き手/山岸 祐子)

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医師プロフィール

武部 貴則 臓器再生医学 

2009年米スクリプス研究所(化学科)研究員、2010年米コロンビア大学(移植外科)研修生を経て、2011年、横浜市立大学医学部医学科卒業。同年より横浜市立大学助手(臓器再生医学)に着任、電通×博報堂 ミライデザインラボ研究員を併任。2012年からは、横浜市立大学先端医科学研究センター 研究開発プロジェクトリーダー、2013年より横浜市立大学准教授(臓器再生医学)、2015年よりシンシナティ大学准教授(小児科)を兼務。独立行政法人科学技術振興機構 さきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」領域研究者、スタンフォード大学幹細胞生物学研究所客員准教授などを兼務。専門は、再生医学・広告医学。

武部 貴則
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