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デザインで人々を健康にする「広告医学」とは

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再生医療の分野で活躍する、横浜市立大学准教授の武部貴則先生。それ以外にも、ご自身の経験から一般の人により健康を考えてもらえる術はないかと、「広告医学」という概念を考え出しました。大手広告会社2社が共同で主催する「MIRAI DESIGN AWARD」で入賞も果たした、広告医学とはいったいどのようなものなのかを伺いました。

―先生が感じる課題は何ですか?

現在ある課題に対して、長期的に続いていく仕組みをつくることが難しいということです。

大学生の時に、全国的に産婦人科医が足りないという現状を何とかしようと思い、「STOP the 妊婦たらい回しプロジェクト」というキャンペーンを行いました。当時の医学生から後期研修医までの600名に産婦人科に対する意識調査を行い、そこから見えた課題を改善する企画をいくつか行いました。

これによって、一般の方々へ問題の認知度の向上を果たすとともに、意外な効果として産婦人科の入局者数が増えるなど嬉しい成果を得ました。この活動は、テレビ・新聞などのメディアにも取り上げられ、賞を受賞するなどしたのですが、一方で、結局短期的なもの活動で終わってしまいました。その時にこういった活動を継続させるには瞬間的に注目されるような形だけではだめだということを学んだのです。

これは医療のほかの分野にも言えますが、例えば生活習慣病の人に「生活習慣を変えましょう」と言ってもなかなか変わりません。そのため、一般の人が日常生活に取り入れやすい仕組みをつくっていくことが、今後とても重要になると考えました。

―そのためにどのような解決策を考えられていますか。

まず、一般の方の目線でものを考えることが必要だと感じました。そこから医療の中に広告の業界で育まれたアプローチを取り入れることを考え始めました。なぜなら広告のクリエーターの方は一般の方にどう影響を与えるかということを常に考えているので、そういった視点を取り入れていくのは良いと思ったのです。そして「広告医学」という概念を作って発信したことで、電通と博報堂が共同で主催する「MIRAI DESIGN LAB」の研究員となりました。

「広告医学」と言うと、マス広告をイメージされる方が多いのですが、僕が考えているのは、一般向けにCMを流すことや、屋外広告を出すということではなく、もっと生活に根ざしたものです。例えばこれまで広告代理店の方とともに、自然と上りたくなる駅の階段をつくったり、体形によって色が変わる下着などをつくったりました。それ以外にもアルコールを飲む量が自然と減るデザインのコップ、食べる量が減る食材の切り方の提案など、そういうことも僕らが対象としているデザインの一つなのです。

現在、横浜市立大学のキャンパスを、学生や地域住民の健康見守りをできる空間にするというコンセプトでプロジェクトを数々提案しています。そのうち、キャンパス内の階段を先ほどお話しした健康階段よりさらに面白く、発展的なものに変えたものが3月に発表になりますし、病院内の敷地内を楽しく歩いていただけるための意外な仕掛けも年度内にリリースする予定です。

また、精神科領域へのアプローチも医師たちと共同で取り組みを進めています。また、広告医学研究会という組織を立ち上げ、医療者やクリエーター、企業の方などが垣根を越えて集まれる場を確立し、広告医学の視点からの課題や事例共有の場を広げています。

このように広告医学は、小さな現場的なデザインの在り方から全体の仕組みづくりまで、広い意味での広告と捉えていただければと思います。

―今後の広告医学の展望について教えてください。

今後やろうと思っているのは病院の空間デザインや、アプリケーションなどのプラットフォーム開発です。退屈な待ち時間がたくさん存在する病院内を、ちょっと健康的に歩いてみたくなるようにしたり、そもそも病院にいて幸せになる空間をつくったりしたいと考えています。病院というと一般的には気持ちがポジティブになるところではありませんが、精神的に落ち着くだけで病気への耐性が上がるのではないかと思っています。

最終的な僕自身の関わり方としては、直接デザインを考案するよりも、持続可能なシステムづくりをしていこうと考えています。広告の領域が医学にマージされたような場、医学部の中にデザインラボをつくることや、マーケティングやコミュニケーションデザインに携わる人が医学部の教授になる組織を実現したいと思っています。

現在すでに、デザインハブという形での活動を開始しています。幸い声をかければクリエーターやマーケッター、医師が集まってくれるので、そこでプロトタイプとしてのソリューションを出していく予定です。ゆくゆくは期限付きの小規模なプロジェクトをいくつか同時並行で行いながら、いろんなものを生み出す仕組みをつくろうとしています。


(聞き手/山岸 祐子)

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医師プロフィール

武部 貴則 臓器再生医学

2009年米スクリプス研究所(化学科)研究員、2010年米コロンビア大学(移植外科)研修生を経て、2011年、横浜市立大学医学部医学科卒業。同年より横浜市立大学助手(臓器再生医学)に着任、電通×博報堂 ミライデザインラボ研究員を併任。2012年からは、横浜市立大学先端医科学研究センター 研究開発プロジェクトリーダー、2013年より横浜市立大学准教授(臓器再生医学)、2015年よりシンシナティ大学准教授(小児科)を兼務。独立行政法人科学技術振興機構 さきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」領域研究者、スタンフォード大学幹細胞生物学研究所客員准教授などを兼務。専門は、再生医学・広告医学。

武部 貴則
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