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「地域医療連携推進法人」成功のための2つのポイント

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2017年度に施行予定の「地域医療連携推進法人」は、さまざまな議論を呼んでいます。ところが、その第一号になることを見据えて動き出している医療法人があります。鹿児島市にある乳がん専門の相良病院をはじめとして4つの施設を運営する医療法人博愛会と、前立腺がん専門の新村病院を運営する医療法人真栄会です。医療法人博愛会理事長の相良吉昭先生に、連携の実態をお話しいただきました。

◆地域医療連携推進法人の概要、課題

地域医療構想を達成するための1つ選択肢として2015年9月、「地域医療連携推進法人」が創設されました。原則として地域医療構想区域である二次医療圏を範囲として、医療法人など複数の非営利法人が参加し、都道府県知事が認定する仕組みの非営利ホールディングスカンパニー型法人制度です。

メリットとしては病床再編が実施できることで、地域医療連携推進法人区域内で急性期から回復期への機能転換を図り過剰病床の適正化が行えること、医師や看護師の共同研修や統一したキャリアパスの構築が可能なこと、患者情報の一元化により退院支援・退院支援の円滑化、救急患者のスムーズな受け入れが可能になることが挙げられています。

しかし、地域医療連携推進法人が参加法人をどう取りまとめていくのか、議決権のあり方など舵取りが難しいという課題があります。また資金力がある医療法人はM&Aするほうが容易です。そんな中で、参加する医療法人が実際にどれだけ出てくるのか疑問視する声もあります。

そこで、「地域医療連携推進法人」を見据えた協定を結んだ医療法人博愛会理事長の相良吉昭先生に、協定の実態を伺いました。

◆医療法人博愛会の動き

「2016年3月、鹿児島市の医療法人真栄会新村病院と『ヘルスケア・パートナーズ・ネットワーク』という形で協定を結びました。

医療法人真栄会が運営する新村病院は、先代から前立腺がんの専門病院です。一方の当医療法人は相良病院、相良病院付属ブレストセンター(乳腺初診外来、乳がん検診)、さがらパース通りクリニック(乳がん患者のフォロ―、放射線治療、放射線診断、人間ドッグ)、さがら女性クリニック(婦人科、甲状腺科、女性内科)の4つの施設を運営していますが、専門は乳がんです。

前立腺がんと乳がんは、抗がん剤やホルモン剤治療において使用する薬剤の多くが同じであり、検査機器も同じです。また、男性がんと女性がんの専門病院同士ということもあり、お互い有している診療科がしっかりと専門が特化されていました。これらに加えて、お互いに有している検査機器、治療機器が重なっておらず、同じ二次医療圏内なので、十分なコラボレーション効果が得られると考えました。

ですから本部機能を統一することによって、薬剤や資材の共同購入を行い、ブランディング活動を一緒に行っています。また、しっかりと機能を分けて役割分担することにより、お互いの専門性を高め合うといった、win-winの関係での協定締結となっています。

完全に機能分化ができていて競合しないという点が、地域医療連携法人として機能するのに重要な点になると思います」

―そうすると、診療科をいくつも持っている総合病院が地域医療連携推進法人に参加していくのは難しいということでしょうか?

「総合病院ですと、採算性のある専門科目をお互いに持っていたり、どちらも持っていないものがあったり、機能分化しようとしてもなかなかうまくいかないのではないでしょうか。

例えば、A病院の乳腺外科を縮小もしくは閉鎖してB病院の乳腺外科に集約し、逆にB病院の泌尿器科を縮小もしくは閉鎖してA病院に集約する。A病院の乳腺外科もB病院の泌尿器科も採算性があったとき、そこを縮小もしくは閉鎖というのはなかなか決断できることではないと思います。また、縮小という形でお互いに同じ診療科があると、結局患者の奪い合いという形になり、機能分化できません」

―では、ガバナンスに関しては、どのようになさっているのですか?

「本部機能はこの度設立した「ヘルスケアパートナーズネットワーク」が担っています。薬剤購入、医療機器メーカーや金融機関との交渉、ブランディングや啓蒙活動の戦略立案などです。診療報酬に関わる点は各法人に任せているので、それぞれが責任を持って行っています。そのため、摩擦もなく連携をとれています」

―今回の業務提携とは違いますが博愛会のように資金力がある場合、経営を統合する手法としてM&Aするほうが簡単に進められると思うのですが。

「例えば、M&Aで買収という関係性だと、買収された側の職員の士気が非常に下がります。すると「いい医療」を提供することが必要不可欠である医療法人では、その根幹が崩れてしまいます。それが一番怖いことです。相手の企業風を否定してしまうと、いずれ質の高い医療が提供できず、徐々に患者さんが離れていってしまい、結果的に潰れてしまう恐れがあります。医療界における経営統合は、相手が今まで大切にしてきたことを守りながら、運営を統一していくといった大切だと思います。

真栄会と協定を結ぶ前年に、宮崎県にある医療法人ブレストピアと業務提携をしています。この時は、博愛会で社員会の過半数以上を締めることにより、私たちの経営手法を導入し、本部機能を統一しました。そして医薬品などを共同購入、銀行も博愛会のメーンバンクに変更しました。結果ブレストピアは、業務提携前は赤字でしたが、グループ化したその年には1年間で3億円の経営改善が見られ、黒字化しました。ここで、本部機能を統合することの効果の大きさを知り、地域医療連携推進法人でもうまく機能し成功できると感じました。

ですから、自らの病院のブランドをしっかりと確立し、完全に機能分化できる補完的な関係になれる医療法人同士であれば、地域医療連携推進法人として機能できると考えています」

参考: 地域医療連携推進法人制度(仮称)の創設について(概要)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000073739.pdf

 

(構成 / 北森 悦)

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医師プロフィール

相良 吉昭 乳腺科

社会医療法人博愛会 相良病院 理事長
川崎医科大学卒業後、すぐに父親が経営する相良病院へ就職。2011年より現職。これまで、全国で初めて乳がん領域においての「特定領域がん診療拠点病院」認定、シーメンス・ジャパン株式会社とのパートナシップ契約の締結、医療法人ブレストピアとの業務提携を行った。医療法人真栄会新村病院と「ヘルスケア・パートナーズ・ネットワーク」の設立し、地域医療連携推進法人の認定を目指している。

相良 吉昭
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