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INTERVIEW

国際医療福祉大学大学院 教授

外科・総合診療科

武藤 正樹

現場から発想し、世の中を変えていく

 外来診療や往診を行い、大学院生を教えながら、厚生労働省や内閣府などで数々の委員も務められている武藤正樹先生。全国各地で行っている医療政策に関する講演は、年間50回以上に及びます。武藤先生は、どのような気持ちで医療政策に携わっていらっしゃるのでしょうか。転機となった経験についても教えていただきました。

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現場の経験から発想する

先生はもともと外科がご専門ですが、医療政策に携わることになったのはなぜですか?

 大きな契機になったのは留学です。10年ぐらい外科の仕事をした後、1986年に当時の厚生省のプログラムでニューヨークのブルックリンにある病院に留学しました。いわゆるスーパーローテーションで各科を回り、家庭医の勉強をしたんです。私は、医局で単科のストレート研修を受けていた世代ですから、外科以外の診療科を回るのはこれが初めてでした。ブルックリンでは、ER、精神科、内科、産婦人科などのほか、在宅医療も経験しました。

 今でも覚えているのは、ある高齢女性の自宅を訪問した時のことです。患者さんが倒れてしまったというお風呂場を見に行くと、老年科の指導医の先生が「この暗い電気を見てみろ」と言うのです。「あの電球は50セントぐらいだろう。でも、もしこのおばあちゃんが転んで大腿骨頚部骨折を起こしたら、何ドルかかると思う? おそらく1000ドルか2000ドルぐらいだ。電球を変えたほうが、安くて済む」と。その後も、冷蔵庫や薬箱を開けて「どんなものを食べてるの?」「薬はちゃんと飲んでるの?」と、生活に関わる部分までケアしていくのです。

 ブルックリンの病院では、多職種からなる「チーム」も経験しました。高齢の患者さんの外来診療で、看護師やケースワーカー、さまざまな高齢者医療の専門家を交えてグループディスカッションをしたり、総合的なアセスメントをしたりもしました。

 これらのことは、今では日本でも当たり前になっていますが、当時の私にとって、在宅や大学病院の外来で行う家庭医の仕事は、全く初めての経験でした。家庭医にはもともと興味があったのですが、それまで過ごしてきた外科の世界との差に大きなカルチャーショックを受け、留学の前後では、ものの見方もずいぶんと変わりました。

 ブルックリンで2年間家庭医療を学び、日本でもこういうプログラムがあるといいだろうなと思いながら帰国すると、家庭医について論争が起きていました。厚生省主導の家庭医プログラムに日本医師会が反対しており、留学して家庭医の勉強をしてきたことなど口にできる状況ではなかったのです。それで、しばらくは地方医務局で国立病院の再編成などの仕事をしていました。

 医療政策の研究を始めたのは、国立医療病院研究所(現在は国立保健医療科学院に併合)に移ってからです。そこでは、今やっているような医療計画に関わる仕事や、当時準備が進められていた介護保険の仕事などをしていました。医療政策に関することは、ほぼここで身につけたと言ってもよいと思います。経営に携わっている人や病院建築をやっている人、看護の研究をしている人など、さまざまなメンバーがいて、新しい視点を得ることもできました。そういったことも含めて、ここでの経験の多くが今の仕事につながっています。

 その後はまた臨床の現場に戻り、いくつかの病院で副院長を務めました。現在は、外来や往診をしたり大学院生を教えたりしながら、国の医療政策に関わる審議会や検討会の仕事もしていますが、これまでの経験としては、臨床現場のほうが圧倒的に長いんです。ですから、国の仕事をするときの発想も、ほとんどは現場から得たものです。もともと現場が好きだということもありますが、現場で見て気付いたことからさまざまな政策を提言することが、私の性に合っているのだと思います。

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PROFILE

武藤 正樹

国際医療福祉大学大学院 教授

武藤 正樹

1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2007年より(株)医療福祉経営審査機構CEO、2011年より(株)医療福祉総合研究所代表取締役社長(兼務)、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2014年4月参議院厚生労働委員会調査室客員調査員(兼務)。
厚生労働省 医療計画見直し等検討会座長、厚生労働省 精神科医療の機能分化と質向上に関する検討会座長、内閣府 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部「医療情報化に関するタスクフォース」レセプト情報等活用作業部会座長、厚生労働省 ジェネリック医薬品品質情報検討会委員、東京都地域対策協議会委員、中医協 入院医療等の調査評価分科会会長を歴任。
日本医療マネジメント学会副理事長、日本ジェネリック医薬品学会代表理事、日本疾病管理研究会会長、医療材料マネジメント研究会代表幹事、一般社団法人医療福祉建築協会理事

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