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INTERVIEW

スタンフォード大学

血液内科医

中内 祐介

新しい土地で、家族と挑む研究・生活・発見の記録

血液内科医として白血病患者と向き合う中で、造血細胞移植の限界に課題意識を抱き、研究の道へ。現在はスタンフォード大学で、白血病の根本治療を目指す研究に挑んでいる中内祐介先生。臨床と研究をつなぐ“架け橋”としての強い使命感と、異国で家族と歩む日々には、揺るぎない覚悟がにじみます。若手医師への温かなメッセージとともに、キャリアの歩みを詳しく伺いました。

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1:スタンフォード大学での研究活動

1.1 現在の研究テーマやラボの環境を教えてください。

血液内科医として多くの症例を経験する中で、根治療法のひとつである造血細胞移植(患者の造血機能を他人の造血細胞で再構築する治療法)に強い関心を持ち、大学院から研究の世界に飛び込みました。学位取得後、より臨床に直結した研究を、世界最高峰の研究施設で行いたいという思いからスタンフォード大学医学部(Majeti研究室)に移り、現在に至るまで、白血病患者由来の血液検体などを用いた研究(臨床と基礎を橋渡しする「トランスレーショナルリサーチ」)に取り組んでいます。大学院生やポスドク、スタッフと共に、基礎と臨床の垣根を越えて、未解決の課題に日々挑戦しています。

1.2 研究室の主な研究成果は何ですか?

これまでのMajeti研究室の大きな成果の一つは、急性骨髄性白血病(AML)が突然発症するのではなく、血液を作る源である正常な造血幹細胞(HSC)がいくつかの遺伝子異常を獲得し、「前白血病幹細胞(preLSC)」となることを、実際に多数の患者サンプルの解析から発見したことです。preLSCは正常HSCのように振る舞い、正常な血液細胞も作りますが、遺伝子異常を持っていることが正常HSCとの違いです。その後、さらにいくつかの遺伝子異常が蓄積することで、最終的に白血病細胞を生み出し続ける「白血病幹細胞(LSC)」となることを、世界で初めて患者検体を使って証明しました。

今では「遺伝子異常が段階的に蓄積してがんになる」という考え方は当たり前のように思われるかもしれません。しかし当時は、遺伝子解析には特別な技術や多額の費用が必要で、患者検体の取り扱いにも多くの労力がかかる時代でした。そのような状況下での発見には非常に大きな意義があり、実際にその成果は今も多くの論文で引用され続けています。

少し前置きが長くなりましたが、私自身は白血病の発症に深く関わる重要な遺伝子の一つに注目し、ヒトHSCにおけるその遺伝子の機能解析(ノックダウン・ノックアウト・過剰発現)を中心に研究を進めてきました。LSCを理解するためには正常HSCについてもより深く知る必要があると考え、現在はpreLSC/LSCだけでなく、正常HSCも含めた、ヒトAMLの治療・予防法開発を目指した研究を続けています。

私たちの研究室について詳しく知りたい方は、下記のリンクをご覧ください。私たちの研究室では、ヒト検体を用いた研究の重要性と、その限界を十分に理解した上で日々研究を進めています。トランスレーショナルリサーチを行うための最高の環境が整っていますので、白血病研究にご興味のある方は、どうぞお気軽にご連絡ください。

Stanford大学Majeti研究室 https://med.stanford.edu/majetilab.html

1.3 他プロジェクトとのネットワークも行っていると伺いました。

白血病研究とは別に、大学院時代から関わってきた造血細胞移植後のGVHD(移植片対宿主病)に対する抗HLA抗体プロジェクトにも力を注いでいます1,2。このプロジェクトは、スタートアップ支援制度であるSPARK3を通じて予期せず資金を獲得できたことから、臨床応用を目指して現在も研究を進めています。さらに、日本人研究者のネットワーク構築を目的にStanford Medicine Japanese Association (SMJA)を友人と共に立ち上げ、スタンフォードにゆかりのある日本人研究者や関係者同士の交流促進にも積極的に取り組んでいます。

もちろん、私の上司であるMajeti教授の理解と支援があるからこそ、こうしたさまざまな活動に挑戦できると実感しています。研究室の運営とは直接関係のない活動に対しても、惜しみなくサポートしてくれる懐の深さが、スタンフォード大学が世界中から人材を惹きつけ、常に世界トップクラスの大学であり続ける理由なのかもしれません。

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PROFILE

中内 祐介

スタンフォード大学

中内 祐介

スタンフォード大学 基礎生命科学研究員

2005年、旭川医科大学医学部を卒業。同年より日本国内で血液内科医として臨床経験を積み、造血器腫瘍や骨髄移植を中心とした診療に従事。2014年に東京大学大学院医学系研究科にて医学博士(PhD)を取得。血液腫瘍の幹細胞特性や再発機構に関する研究に取り組みつつ、臨床と研究の両立を図る。2016年よりスタンフォード大学に移籍し、幹細胞生物学・再生医療研究所にて基礎生命科学研究員として勤務。2023年にはStanford SPARK支援研究にも選出され、白血病治療における新規抗体治療の臨床応用に向けた研究を主導。

 

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