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INTERVIEW

慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室

精神科

岸本 泰士郎

遠隔医療データで未来の精神科を変える

臨床精神薬理の研究に携わっている岸本泰士郎先生。精神科領域の薬の開発がなかなか進んでいないことに課題を感じながら、米国へ留学、遠隔医療に出会いました。これをきっかけに、帰国後、遠隔医療を活用した精神科医領域のさまざまな研究を進めています。遠隔医療の可能性や、今後の展望を伺いました。

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精神科医療と相性が良い遠隔診療

―現在、精神科領域での遠隔診療の研究を進められていますね。

精神科では診療の大部分が患者さんとの会話で成り立ちます。いわゆるテレビ電話は、お互いの顔が見え、声が聞こえるため、精神科医療との相性がいいと言われています。実際に海外では、精神科領域の遠隔医療が保険診療として認められている国もあります。しかし日本では、ごく一部の医療機関で試験的に導入されているにすぎません。そこで私は、日本での遠隔医療をより促進させるためのプロジェクトを展開しています。現在、臨床研究で診ている患者さんは、治療も上手くいっており、全体的には順調に研究を進めることができています。

―遠隔での診療では限界があるという声もあります。一方、研究が順調に進んでいるということは、岸本先生は遠隔診療の限界はあまり感じていないということでしょうか?

そうですね。確かに直接対面で話すほどの情報量がないために、診療として成り立たないのではないか、心理的な距離を感じやすいのではないかなどの意見が聞かれます。しかし実際にやってみると、お互いが遠隔での通信に慣れることによって、そのような問題点は解消されることが分かります。また、諸外国の研究結果を見ても、治療効果や満足度に差はないと報告されています。

効果面よりも、むしろ問題点は、安全性や責任の所在などに関してかもしれません。自傷行為をしたり自殺企図があったりする患者さんを遠隔地で診ていて、万が一そのような行為があった場合、誰がどう対処すべきなのか、万が一の事故の責任を誰がとるのか、あるいは、通信が途切れたときにどう対処したらいいのかなどの議論が、まだ十分になされていないことです。診療を取り巻く制度の整備がされていないことが、遠隔診療推進の障壁になっています。

―では、遠隔診療のメリットは、どのような点に感じていますか?

医療過疎地で地理的に通うのが困難な方にとってはもちろんのこと、例えばPTSDや強迫症などの症状によってなかなか医療機関に通えない患者さんにとっても有効だと考えています。

また、遠隔診療はデータの収集が行いやすいという側面があります。仕組みさえ作れば、診療データがデジタルデータとして蓄積されていきます。ビッグデータやそれを用いたAIによる解析の有用性が注目されるようになっていますが、遠隔医療はそういった技術を利用して、より治療効果の高い、効率的な医療を展開していくためのツールになる可能性があります。一つの未来医療の試みとして、私たちが行っているプロジェクトが「機械学習を用いた表情・体動・音声・日常生活活動の解析(PROMPT)」です。

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PROFILE

岸本 泰士郎

慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室

岸本 泰士郎

慶應義塾大学医大学精神神経科学教室  専任講師
1973年生まれ。2000年、慶應義塾大学医学部卒業、同大学 精神神経科学教室に入局。国家公務員共済組合連合会立川病院神経科を経て、 医療法人財団厚生協会大泉病院にて副医長 ・医長を歴任する。2009年11月より、 The Zucker Hillside Hospital  Post Doctoral Research Fellow、
Feinstein Institute for Medical Research, The Zucker Hillside Hospital  Assistant Investigator、
Hofstra Nprth Shore-LIJ school of Medicine  Assistant Professor of Psychiatryを経験し帰国、現在に至る。

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