ピロリ菌の除菌治療
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ピロリ菌の除菌治療は、三剤併用療法が標準です。初めての除菌治療は(一次除菌)、胃酸を抑える薬(PPIあるいはP-CAB)と抗生剤2種類(ABPCというペニシリンとクラリスロマイシンというマクロライド系抗生剤)を1日2回(朝食後と夕食後)1週間のみます。
1回目の除菌治療の成功率は70~80%でしたが、新薬を使うと92.6%の成功率になるといわれています(武田薬品工業株式会社治験データより)。1回目でピロリ菌が残ってしまった場合は、2回目の除菌治療(二次除菌)を受けます。2回目は、胃酸を抑える薬(PPIあるいはP-CAB)と抗生剤2種類(ABPCというペニシリンとメトロニダゾール抗原虫薬という抗菌剤)を1日2回(朝食後と夕食後)1週間のみます。2回目の成功率は90%です。
除菌治療は2回まで、健康保険の適応となっていますので健康保険診療(若い方は3割の自己負担)で受けることができます。二次除菌まで受ければ、98%とほとんどの方が除菌できます。
除菌治療終了後、1カ月以上間隔をあけて検査します。検査方法は、薬を内服して吐く息を集めて検査する方法(尿素呼気試験)が推奨されています。尿素呼気試験で判定が微妙な場合は、便中抗原検査あるいは血清抗体検査などを追加することもあります。
もう安心!ではありません。胃がん内視鏡治療後に除菌治療を施行後の異時性胃がん(新しい胃がん)に関する研究より、除菌治療が成功すると将来胃がんになる危険を減らすことができることが報告されており、さらに別の研究により3分の1程度に減ることが報告されていますが、胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。この胃がんの予防効果は若ければ若いほど大きく、二十歳代であれば99%は予防できるといわれています。
ピロリ菌感染によって胃の粘膜に起きた慢性的な変化(萎縮性胃炎や鳥肌胃炎)は除菌後軽くはなるものの、残ってしまいます。萎縮のある胃粘膜、あるいは鳥肌のように小さな隆起が広範にできてしまった胃には、胃がんの発生する危険が高いことがわかっています。除菌治療後5~6年してから胃がんが発見されることは決して珍しくありません。除菌治療後は、1年に一度の胃内視鏡検査(胃カメラ)による経過観察が極めて重要です。
別の薬を使った三次除菌、四次除菌がありますが、薬の内服期間が10日から2週間と長くなります。また現時点では、健康保険の適応がなく、自費での治療となってしまいます。費用は2~3万円程度かかります。
《参考文献》
Uemura N1, Mukai T, Okamoto S, Yamaguchi S, Mashiba H, Taniyama K, Sasaki N, Haruma K, Sumii K, Kajiyama G. Effect of Helicobacter pylori eradication on subsequent development of cancer after endoscopic resection of early gastric cancer. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 6(8):639-42, 1997
Fukase K, Kato M, Kikuchi S, et al. Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of meachronaous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: ann open-label, randomized controlled trial. Lancet 372: 392-397, 2008
医師プロフィール
村井 隆三 消化器外科
医療法人社団おなか会おなかクリニック理事長・院長
NPO法人二十歳のピロリ菌チェックを推進する会代表理事
1982年東京慈恵会医科大学卒業後、同大学にて外科研修医。1984年同大学附属第三病院外科入局。同大学附属病院外科講師、東急病院外科 外科系診療部長、町田市民病院外科 消化器担当部長。同大学助教授、東京医科歯科大学大学院医療経済学非常勤講師、夕張希望の杜理事などを歴任。2005年京王八王子駅前に村井おなかクリニックを開業。医療法人化を経て、2011年JR八王子駅前に移転し、おなかクリニックと改称。年間8000件以上の胃・大腸内視鏡検査と年間およそ400件のソケイヘルニア・痔の日帰り手術に特化した専門クリニックである。