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発達障害の子どもは非行に走りやすいのか?

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筑波大学で子どもの発達障害に関して研究をされている塩川 宏郷先生。かつて東京少年鑑別所で矯正医官として勤務された経験があります。近年、少年による凄惨な事件が起こった際に発達障害に着目した報道がなされるようになり、発達障害の特性と少年の非行を短絡的に結びつけるような認識があることに危機感を抱いています。少年の非行と発達障害には関係があるのか、教えていただきました。

少年の非行に発達障害が関係しているのか

近年、「発達障害」という言葉が「少年の非行」にダイレクトに結びついて、「発達障害と非行は関係している」という短絡的な誤った認識が普及してしまった印象があります。文部科学省の調査によると、全国の公立小中学校の生徒の約6.5%は何らかの発達障害もしくはその可能性があると言われています。これは、1クラス40名の中に2、3名は発達障害らしい子どもがいるということになります。では、鑑別所に来る少年には発達障害らしい例はどのくらいあるのか。東京少年鑑別所で勤務していた時に調査したところ、少年鑑別所入所少年の中で発達障害を持つ例が占める割合は、可能性がある少年を含めても5%程度でした。つまり文部科学省の一般的なデータと同じ、むしろ少ないということがわかりました。非行少年には発達障害を持つ子が多いわけではないのです。

◆発達障害と非行を結びつけてしまう可能性のあるもの―「心理的虐待」

しかしながら、鑑別所で少年たちに対応していると、発達障害であることに加えて、その特性を周囲にわかってもらえないことや、親から虐待を受けていることが非行と関係しているのではないかと感じられることがありました。そこで、発達障害を持つ非行少年の既往歴を調べてみたところ、発達障害を持つ少年は、そうでない少年よりも「逆境的経験」、なかでも「心理的虐待」が多いという結果が得られました。心理的虐待とは子どもを必要以上に叱責したり子どもに対して暴言をはいたりすること、子どもが褒めてほしいときに褒めない、蔑む・からかうことなどをさします。

また、発達障害を持つ非行少年の多くは、鑑別所に入所して初めて発達の障害を指摘された・診断されたという例でした。発達障害特性を持つことを理解されず、さらに心理的な虐待を受けている子どもは非行に走りやすいという傾向が見られるのです。

◆親はよかれと思って叱責している場合が多いため、なかなか解決しにくい。

この問題の難しいところは、発達障害が理解されにくい障害であることと、心理的虐待をしている親は、虐待という意識はなく、むしろ子どものためを思って叱っているという意識が強いことです。これは教育の現場でも言えることだと思います。

例えば学習障害とよばれる状態の場合、全般的な知能発達の遅れはありませんが、文字は読めても計算ができないなど、一部の能力が欠落していることがあります。その子は脳の機能障害によって計算ができないのですが、そのことが理解されていないと、周囲からは「計算ができないのは努力が足りないから」と捉えられてしまいます。

親や教師は「算数の成績をあげるためには、もっと計算ドリルをやれ、もっと努力しろ」と子どもに言い続けるのですが、本人はいくらやってもできないため、「何をやってもうまくいかない」「努力しているのに何でできないんだろう」「自分はだめなやつなのかもしれない」「誰も自分の事をわかってくれない」という気持ちから、非行や自己破壊的な行動に発展する事があるのです。

◆叱責ではなく、支援を

親や教師は子どもの将来を考えもっと勉強をしたほうがいいと思っているのですが、発達の偏りは脳の特性が原因なので、叱ったり強制したりすることで良くなることはありません。叱るのではなく、まず小さなことでもできていることを「認める」こと、できて当たり前のことでも褒めて子どもの自尊心を高めること、さらには短く分かりやすい言葉で声をかけたり、行動の予定表をつくったりといった工夫をして、上手に学習や行動ができるような手伝いをしてあげることが役にたちます。

もちろん、いけないことをした場合にはきちんと叱ることも大切です。ただ、この場合も発達の特性を考慮して、感情的に怒りをぶつけることは避け、どのようなことがいけないのか・繰り返さないようにするためにはどうすればいいかを教える、あるいは一緒に考えるといった姿勢がよいでしょう。ダメ出しするときは次どうするかを教えるチャンスだと思ってください。

そのためにも、子どもの発達の特性に早めに気づいてあげること、そしてそれを修正するのではなく子どもの特性として理解し支援していく姿勢を持つことが重要です。発達に偏りがあることを知り受容すること、その子の得意なところ、不得意なところに合わせた支援の方法や、言葉かけ、勉強法などを親や教師(あるいは支援者)が学ぶことで、少なくとも発達障害を持つ子どもが非行や問題となる行動をとってしまうことは減って行くのではないかと考えます。

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医師プロフィール

塩川 宏郷 

筑波大学人間系障害科学域准教授。1987年自治医科大学医学部卒業。1998~2008年、自治医科大学小児科勤務時に「とちぎ子ども医療センター子どもの心の診療科」の立ち上げに尽力する。2008年から2年間 外務省・在東ティモール日本国大使館 参事官兼医務官を務め、その後、東京少年鑑別所医務課医務課長などを経て2013年10月より現職。監修書に「発達障害を持つ子どものサインがわかる本」

塩川 宏郷
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