介護現場の医療課題を解決する
記事
◆介護現場と医師のコミュニケーション不足
―今、どのようなことに取り組んでいるのか教えていただけますか?
私は介護現場のスタッフと現役医師を気軽にチャットでつなぎ、介護現場での医療的な困りごとを解決するサービスを始めました。会社名は、医師と「メイト=仲間」という意味を込めて、ドクターメイトと名付けました。
2018年4月から本格的に活動を始めていて、現在は介護施設でサービスの試験運用をさせてもらっています。介護士一人ひとりがドクターメイトに登録するのではなく、施設ごとに導入してもらう形態です。6月までは試験運用で、7月からは実際に施設のベッド数に合わせて月額利用料が変動する形で本格始動します。
―なぜ、介護現場からの相談に乗るチャットサービスを始めたのですか?
臨床で感じた課題が原点です。私は大学を卒業後、内科の研修を中心に回っていましたが、臨床現場に出てみると、自分の想像を遥かに超える高齢化を目の当たりにしました。80代、90代の患者さんが多く、70代の患者さんを診ると若いと感じます。
ご高齢の患者さんに対して医師がすることは、完全に治すというよりもその方にとっての通常の日常レベルまで回復させて、あとはご本人とご家族に納得してもらってご自宅や介護施設への退院をセットアップして帰すこと。これがメインでした。うまく退院させることができればいいですが、スムーズにいかないこともしばしば経験しました。
このような現状の中で「なんでうまくいかないケースがあるのだろう」と違和感を抱いたのです。そんな違和感の中で、治療結果が目に見えて分かり、目で見えるからこそ自分の治療にごまかしの効かない皮膚に興味を持ち、その中でも手術を専門に行う皮膚外科に進むことにしました。
皮膚外科最初の1年間は、皮膚がんの手術をすることが多く、もともと感じていた違和感を思い出すことはありませんでしたが、皮膚外科2年目に、市中病院の皮膚科に務め始めたら、内科の時に見てきた状況と全く同じ状況が広がっていました。数ヶ月かけて褥瘡を治してご自宅や施設に帰したのに、また1周間程度で褥瘡を作って帰ってきてしまう――。「なんでこんなことになってしまうんだろう」と本当に歯がゆい思いをしました。
まずはその原因が知りたくて、介護士が参加する勉強会などに参加するようにしました。介護現場のことを聞いてみると、介護現場での医療サポートが十分でない様子が分かってきたのです。
施設に嘱託医はいますが、自分のクリニックを持っている場合も多く、施設に来るのは週に1回だけ、何か聞きたいことがあっても日中の診療中は電話をかけても出てくれない、精神科や皮膚科などマイナー科のことになると、分からないから病院に行ってと言われてしまう。医師とのコミュニケーションが十分に取れないという声を数多く聞いたのです。同時に、医療的な問題を抱えた高齢者が入居してくることを、介護従事者の方たちが不安に思っていることも分かってきたのです。それで、介護従事者と医師をつなぐサービスを始めようと決めたのです。
医師プロフィール
青柳 直樹 皮膚科
ドクターメイト株式会社
1988年千葉県生まれ。2013年千葉大学医学部を卒業、千葉市立青葉病院にて初期研修修了。2016年頃から介護現場の医療相談を受ける活動を開始、2018年4月にドクターメイト株式会社代表取締役として活動を本格化、現在に至る。