3DCGの医療説明動画を世界中に広めたい
記事
◆患者にも分かりやすい3DCGの説明動画が欲しい
―初めに循環器内科を選んだ理由を教えていただけますか?
私は、東京医科大学を卒業後、そのまま大学病院で初期研修を修了、循環器内科医としての道を選びました。理由は今振り返って考えてみると、循環器疾患には、高血圧から心停止まで、心臓に関連する疾患を非常に幅広く診られること、そして心停止の状態で救急搬送されてきた患者さんを、自分で歩いて帰れるまでに回復させることができること、そのような点に魅力を感じたからだと思います。
―その後、3DCGの動画制作を始めるようになったきっかけを教えていただけますか?
循環器内科医として毎日、患者さんやご家族に冠動脈造影検査をしていました。説明は心臓の仕組みの話に始まり、一般的な労作性狭心症とは何かという話、「あなたの場合はこうですよ」という説明、検査の説明、入院の必要性についての説明、合併症の説明、と続きます。「あなたの場合はこうですよ」という話以外は、どの患者さんにも同様の説明をします。そして紙に手書きで心臓の絵を書いたり、本を使ったり、患者さんに理解してもらえるような説明を試みますが、思うように伝わらないこともしばしばありました。
そんなある日、医療ドラマを見ていたら、心臓を切って小さくするという説明を3DCGを使って説明していたのです。それを見て「一般の視聴者にも分かりやすいのだから、こんな説明ツールが医療者の元にあったらいいのにな」と思いました。このドラマを見たのが2010年頃で、それ以来5年程あちこち探し回ったのですが、どこにも似たような動画はなく――ないなら、自分で作るしかないと思ったのです。
◆自分で3DCGを作るしかないと決意
―すごい決意をしましたね。
ただ最初は、自分の中にプランだけ持っていて、CG制作会社に制作を依頼しようと考えていました。知り合いは医療者ばかりで、何とかつてをたどって3DCG制作会社の方とお話する機会を設けていただき、医療領域の動画制作を得意としている会社の方に見積もりを出してもらったんです。
見積もりの段階で考えていた動画は、それぞれ1分程度の動画4本。(1)心臓がポンプになって全身に血液を押し出していることの説明、(2)心臓に血液を供給する冠動脈という太い血管が3本あることの説明、(3)血管内にプラークができ、どんどん血管が細くなることの説明、(4)カテーテルが通っていく様子の4本でした。返ってきた見積もりを見てみると、制作期間は半年で、予算はなんと1000万円……!
最終的には何百個ものコンテンツを月額数万円で配信していくことを構想していたので、「これでは何十億必要なんだ!?」と衝撃を受けてしまいました。そこで3DCGの動画自体を自分で制作を始めるしかないと思い、会社を立ち上げることになったのです。
自分が本当に作れるのかという不安もありましたし、ある意味賭けに近いものがありましたが、株式会社Dr.ENLIGHTを創業、CGの作り方を勉強するところから始め、循環器領域のコンテンツを中心に、30個弱のコンテンツを完成させました。循環器領域以外にも、ピロリ菌の説明や上部消化管内視鏡検査の説明動画など内科領域のコンテンツも作っています。
動画はWindowsのタブレットやPCで使用できるように、Windowsのアプリケーションとして配信していて、7施設に導入してもらっています。
CG動画の1シーン(冠動脈形成術)
―実際にコンテンツはどのように作っているのですか?
現在は、月1〜2本のペースで制作しています。私の他にナレーターとイラストレーターがいて、私がシナリオの原案を考え、ナレーターと一緒に医療用語を一般の方にも分かりやすいような言葉に落とし込み、イラストレーターにはイラストをお願いして、最終的に私が3DCGの動画に編集するという流れで作っています。1つのコンテンツにかかる時間は大体60~70時間程ですね。
最初に見積もりを見た時には大きな衝撃を受けましたが、実際に自分で動画を制作してみると、莫大な時間とコストがかかることは十分に理解できます。
医療者が学生の頃から学んできて社会人となり何年もかけて頭の中で作り上げてきたものと全く同じイメージを、3DCG制作者の頭の中にも作り上げ(医療分野のため、特にこの点が難しいです)、見える形にするという作業はとても難しく、時間に応じ
てコストもかかってくるもの当然だと思います。
医師プロフィール
木村 一貴 循環器内科
株式会社Dr.ENLIGHT代表取締役
2007年東京医科大学を卒業、同大学病院で初期研修修了、循環器内科に入局。2016年、株式会社Dr.ENLIGHTを創業。現在は東京医科大学茨城医療センターに循環器内科医として勤務する傍ら、3DCGを用いた医療動画を制作している。