内視鏡検査を行うときに医師が気をつけるべきこと
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内視鏡検査は「つらい」とおっしゃる方が多いです。中には、前日から緊張して寝られないという方もいるほどです。内視鏡検査は検査台に乗った時に始まるのではなく、予約した時からすでに始まっているのです。
ですから、医師は心の準備ができるように患者さんに配慮してあげることが必要です。でも、実際には刹那的に検査だけに集中して、「患者さんのこころ」を気にかけていない医師も少なくありません。
そもそも、できるだけ楽に検査を受けられるように説明することは、至極あたりまえのことです。多少手間はかかるかもしれませんが、丁寧な説明が徹底されれば患者さんの内視鏡に対する抵抗感も和らぐのではないでしょうか。
例えば、ある医師が患者さんに内視鏡検査をしたときに、それがとてもつらかったとしましょう。その方はつらさのあまり「もう死んでも胃カメラは受けない」と言って、会計もせずに帰ってしまいました。
何年かたち、その患者さんがげっそり痩せて、食事ができないと言って病院へ来ました。その診断が「進行胃がん」だったとします。はたして悪いのは病院へ来なかった患者さんなのでしょうか?
もしかしたら、以前行った胃内視鏡検査がトラウマ(Trauma:精神的外傷)になったのかもしれません。
検査を施行した医師は悪いことをしたとは思っていないかもしれません。その医師が患者や家族から訴えられることもないかもしれません。でも、医師というプロならば、たとえ患者さんが一見(いちげん)さんであったとしても、胃内視鏡検査は刹那的な検査と考えてはいけないのです。患者さんが毎年気軽に受けてもらえるような苦痛のない内視鏡検査を提供することこそ、プロとして自認できる技術であり、診療なのです。
医師にとってその患者さんは何十人のうちの一人かもしれませんが、患者さんにとって「先生」は一人。内視鏡を受けるという行為は決して刹那的なものではありません。内視鏡医は、もしかしたらこの検査で患者さんにトラウマを与えてしまうかもしれないということを、肝に銘じて施行しなければならないのです。
医師プロフィール
西野 徳之 消化器内科
一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院
1987年自治医科大学卒業後、旭川医科大学第三内科を経て、利尻島国保中央病院などで地域医療に従事。2000年10月より一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院(福島県郡山市)勤務。2007年より消化器センター長。医師不足の地で診療に邁進しながら、研修医指導にも情熱を傾けている。苦痛のない内視鏡をyoutubeで紹介している。『Oriented Endoscopy- -』http://www.youtube.com/watch?v=eYg8qkB-H2I 著書に「良医となるための100の道標 ―研修医諸君! 本音で「医道」を語ろうー」日経BP社、「ココまで読める! 実践腹部単純X線診断」中外医学社などがある。