医師7年目の木村真依子先生。腎臓内科に魅了され、腎臓内科医としてのキャリアを歩んでいます。そして働く中で、ある課題に直面しました。その課題を解決するため始めた取り組みとは――?
◆腎疾患のある患者が腎臓のことを知らない
―腎臓内科に進まれた経緯を教えていただけますか?
生物が好きで医師になりたいと思い、千葉大医学部に進学しました。初期研修修了後、一度は糖尿病内分泌科に入局したのですが、医師3年目の時に勤務していた千葉東病院で腎臓内科に魅了されて、転科しました。
千葉東病院の腎臓内科は有名で、数多くの患者さんを診ていました。腎臓内科は、疾患の種類が幅広いです。例えば、救急搬送されてきたと思ったらすぐに人工透析をしなければならない場面に遭遇することもあれば、慢性的な腎臓疾患で長年に渡り定期的な受診をしている患者さんもいる。カテーテル治療もあれば病理診断もできる。多様な患者さんに接することや、その他にもさまざまな魅力を感じました。
―腎臓内科医として勤務する現在、どのようなことに課題を感じていますか?
2018年4月から千葉大学医学部附属病院 腎臓内科に勤務しています。現在一番感じる課題は、長年腎臓内科を受診している患者さんでも、腎臓のことを全然知らない方が多いこと。腎臓がある場所はお腹側だと思っていたり、1つしかないと思っていたり――。この現実に私は、大きな衝撃を受けました。
これまでに、いくつかの病院に勤務してきて、一部の病院には慢性腎臓病(CKD)教育入院がありました。外来で腎臓に関する知識がなかったり、治療に積極的でない患者さんがいたら、教育入院でプログラムを受けてもらうことができました。そこで学んだ患者さんが外来に戻ってくると、ある程度知識をつけているので、あまり課題には感じていませんでした。
一方、当院にはまだ慢性腎臓病教育入院がありません。そのため、患者さんが腎臓のことを知らないことがより一層浮き彫りになり、衝撃を受けたのだと思います。
◆腎臓のことを知ってもらうことが第一歩
―その課題感に対して、新たな取り組みを始めたと伺いました。
腎臓の「基本のき」を解説する動画を作り始めました。動画にした理由は、私自身が全く分からないことを調べるときに、活字より動画を利用することが多く、動画のほうが分かりやすいと思ったことと、糖尿病網膜症などで文字を読むことが難しい方がいたからです。
動画を作り始めて間もないので、手探りの部分が多いですが、今後はもう少しシステム化してコンテンツ数を増やしていきたいと考えています。また伝えたいことを伝えるために、コメディカルの方にも協力してもらえればと考えています。例えば、食事療法について解説する場面には栄養士の方に登場いただいたり、近年少しずつ普及してきている腎臓リハビリテーションの解説をする際には、理学療法士の方にも登場していただいたりしたいと思っています。
―腎臓のことを解説した動画を通して、どのようなことを実現したいと考えていますか?
腎臓のことを知らないのに、「腎臓のために食事の仕方を変えてください」「減塩してください」と言われても、そんな簡単に行動は変えられません。むしろ、理由も分からず行動変容を促されても、反発したくなると思います。一方で、不健康になりたい人もいないはずです。
腎臓がどういう働きをしていて、自分が抱えている疾患によってどのような機能障害が起こり、どうなってしまうのか。また、腎臓は一度機能が失われたら完全に回復しないこと、だからこそ機能障害の進行を遅らせることが大事だということ、その方法として医師が提案している治療法があることなど――。そういったことを知ってもらえれば、患者さんは積極的に治療や予防に取り組めるはずです。実際に、教育入院した患者さんは、行動変容が起こりやすかったです。
しかしながら、外来だけで患者さん一人ひとりに腎臓のことを詳しく説明する時間はありません。だからこそ、動画を通して腎臓のことを知ってもらい、腎不全で苦しむ患者さん、人工透析になる患者さんを一人でも減らしていきたいです。
さらに、動画で発信していけば、まだ腎疾患になってない方にも腎臓のことを知ってもらえる可能性が広がります。自覚症状が出にくい腎疾患ですが、動画を通して早めに腎臓内科を受診するきっかけをつくることができれば、腎疾患を防ぐことも可能だと考えています。
◆キャリアの岐路
―では、今後のキャリアはどのように思い描いていますか?
実は、今まさに悩んでいます。腎臓内科医として臨床現場で患者さんを診ることには、非常にやりがいを感じています。そして現場で感じた課題に対して、ビジョンを持って動画制作の活動を始めました。しかし同時に、2018年4月から大学院で基礎研究にも関わり始めました。基礎研究は本格的に取り組むとなると、臨床を離れる覚悟で、寝る間も惜しんで研究に打ち込まなければならないと思います。
現在、二兎どころか三兎追っているような状況ですが、三兎全てを追うことは出来ないのではないかとも感じているので、どれかに絞らなければいけないタイミングが近いうちに来るのではないかと考えています。医師7年目でキャリアの岐路に立ちつつありますが、じっくり自分のキャリアを見つめていこうと思っています。
(インタビュー・文/北森 悦)