医師7年目の本田優希先生。長野県、東京都でトレーニングを積み、2018年4月から獨協医科大学総合診療科に所属しています。将来的には、出身地である長野県で医療に携わりたいと考えている本田先生は、どのような想いを持って獨協医科大学にいるのでしょうか。
◆病院総合医として臨床、教育、研究のトレーニング中
―現在は、どのような活動をしているのでしょうか?
2018年4月から獨協医科大学総合診療科に所属し、臨床スキルを上げるとともに、教育や研究にも携わっています。
―獨協医科大学総合診療科に赴任した経緯は?
ご縁があって総合診療科立ち上げにあたって声をかけて頂いたことが大きです。自分が身につけるべき3つのことが学べる環境に魅力を感じました。
1つは診断力。病院の総合診療科に求められる大きな役割の1つは、診断だと思います。 地域の診療所や病院、院内の他科から紹介される患者さんの診断をつけ適切な治療につなげることが求められます。当科を立ち上げた志水太郎先生は診断学の第一人者であり、志水先生のもとでトレーニングを受けたいと思いました。
2つ目は、大学という教育機関での臨床教育。これまで勤務していた市中病院とは違い、大学病院では、学生から初期研修医、専攻医と幅広い学年の多様な学習者に対して教育を行います。現在、年間で110名ほどの臨床実習の学生と30名ほどの初期研修医が当科をローテートし、また内科および総合診療専門医プログラムの専攻医8名が当科に所属しており、日々臨床教育を行っています。臨床教育の手法を学ぶことで今後に活かせると考えました。
3つ目は研究です。総合診療の価値を発信するためには一定の学術的な側面からの貢献が必要だと考えています。 自分がある程度臨床研究の基礎を身につければ、将来的に後輩にも指導できます。
―総合診療の分野で臨床、教育、研究に携わっていく理由はどのようなところにあるのですか?
私自身、病院というセッティングの中で総合診療に携わっていきたいと考えています。今後、さらに高齢化と病院の機能分化が進む中で、病院における総合診療医のニーズが増してくると考えており、病院総合医を養成する役割を担いたいと思っています。
しかし、病院総合医は十分に確立されていない部分や、理解されていない部分があります。病院総合医を目指そうと思ってくれる医学生や研修医に対してその魅力を十分に示せていないと思いますし、キャリアパスやロールモデルの提示が十分にできていないことも大きな課題です。病院総合医を確立し、魅力を発信していくために、まず私自身の臨床スキルや教育スキルを上げるとともに、研究を通して病院総合医の存在意義を示していきたいと考えています。大学で多くの医学生や若手医師たちに対して病院総合医やその存在意義を知ってもらうことの影響力は非常に大きいと感じています。
◆病院での総合診療に興味を持った理由
―総合診療医を目指したのはなぜですか?
総合診療医というキャリアを進もうと決めたのは初期研修医の時でした。初期研修2年目の時に、市立福知山市民病院(京都府)総合内科の川島篤志先生の講演を聴き、川島先生が病院総合医として実践されていることが自分のやりたいことと合致していると感じ、総合診療医になろうと決めました。
初期研修を受ける中で、入院患者さんは高齢で多疾患併存(multi-morbidity)の方が多く、入院中に合併症を起こすこともあり、入院のきっかけとなった主たる問題以外の部分も含めた全体像を診てトータルケアを行っていかなければいけないことを痛感しました。もちろん、それら全てを自らの力だけで完結することはできませんが、主治医として他科の医師や多職種と連携してより良い医療が提供できることに大きな魅力を感じました。
また、病院での総合診療において、院内の管理業務や他施設との連携も重要です。そういった部分にもやりがいを感じました。
―獨協医科大学に赴任するまでは、どのような医療機関でトレーニングを積まれたのですか?
初期研修は長年暮らしていた長野県にある長野中央病院で受けました。将来的に長野県内の医療に貢献したいと思っており、長野中央病院の環境はとても良かったので、そのまま後期研修を受けることも考えましたが、後期研修では練馬光が丘病院の総合診療科に移ることにしました。
総合診療はセッティングによって求められることとやるべきことが大きく変わります。病院というセッティングに限定しても、院内の専門医の配置や地域の中での病院の役割によっても求められることは変わり、扱う疾患や治療も変わります。そのため、様々な環境でトレーニングを積むことで得られるものがあると考え、練馬光が丘病院のプログラムを選びました。
後期研修では内科全分野のcommon disease、急性疾患の病棟診療を中心に、離島や医療過疎地域の中核病院での診療や救急・集中治療領域の短期研修も経験することができました。科内での後輩研修医の教育やチーフレジデントとしての役割も経験させてもらい、成長することができたと感じています。その後、2018年4月に獨協医科大学病院に移りました。
◆患者さんの健康を支えるために何が重要かを考える
―今後の展望はどのように考えているのですか?
当科でトレーニングを積んだ後は長野県に戻ろうと考えています。私のフィールドは、中規模病院の総合診療科だと思っていて、そこで臨床を中心に教育や研究にも携わっていきたいですね。自施設で病院総合医の教育体制を整えるのみならず、病院総合医養成の全国的な連携を作っていけたら理想的だと考えています。
医師にとって、それぞれの患者さんの健康を支えるために何が重要なのかを考えることが大切だと考えています。例えば、多疾患併存の患者さんに対して疾患ごとの標準治療を全て適用することが必ずしも良い医療ではない場合があります。医療はあくまで患者さんの人生を支える一要素に過ぎないことを認識し、患者さんの価値観を尊重して医療を提供することが重要です。
患者さんの全体像を捉え、予後も想定したうえで患者さんや家族と十分に話し合い、精査の適応や治療選択、予防などをプランニングしていける主治医の存在が必要です。自分自身もそのような医師でありたいですし、そのような視点を共有できる医師を増やしていきたいですね。それが、地域医療にもいい影響を与えるのではなないでしょうか。
(インタビュー・文/ 北森 悦)