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精神疾患患者の社会的健康格差を解決したい

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医師10年目の鈴木航太先生は現在、社会精神医学の研究の傍ら、医療系ベンチャー企業2社の事業に携わっています。精神科医として2足のわらじで解決したいこととは――?

◆アカデミアとベンチャー企業の2足のわらじ

-現在の活動内容について教えていただけますか?

現在は、主に3つの軸で活動しています。

1つは、アカデミア。現在、慶應義塾大学精神神経科大学院の博士課程に在籍し、社会精神医学の分野で研究をしています。社会精神医学では、例えば、どうすれば精神病を発症した人が早期に医療機関を受診することが出来るのか、高齢者のどの様な身体活動が認知症予防につながるか、精神疾患の方がどうすれば社会の中でより良く暮らしていけるかなどを研究します。

2つ目はHIKARI Lab株式会社。私は精神科医として、HIKARI Labと他社との共同事業に専門家として参画したり、データ解析などのアカデミックな部分を担当したりしています。またHIKARI Labは、ニュージーランドで制作された認知行動療法を学べるRPGゲーム「SPARX」を、日本語にローカライズしてスマートフォン向けに販売しているので、外来患者さんにプレイしてもらって診療の一助としたり、心理教育のツールとして使用したりしています。ゲームやエンタメのような敷居の低い媒体を利用することによって、病院を受診する前にまず、自分で知識を得てメンタルケアをするという予防につながればと思っています。

3つ目はドクターメイト株式会社。ドクターメイトがターゲットにしているのは、介護施設の看護師、介護士さんたちです。介護施設のスタッフと医師をチャットでつなぎ、専門性の高い医師が施設からの相談に答えることで介護施設の医療レベルを高めることを目指しています。介護施設には多くの場合、嘱託医(施設専属の医師)がおかれていますが、精神科や皮膚科などのいわゆるマイナー科については専門外であることが多く、利用者(患者)さんが適切なタイミングで専門的な医療を受けられないことがあります。施設に入ってしまったが故に医療にアクセスしにくくなってしまうのは大きな機会損失と考え、通院や専門医へのアクセスのハードルを下げる取り組みを行っています。

この3つの軸を合わせて、社会精神医学の観点から精神科を受診する患者を未然に減らし、精神疾患に対する社会の理解を広げていきたいと考えています。

◆「精神科医」になりたかった

-そもそも、精神科医を志したのはなぜですか?

私は元々、精神科医になりたいと思い医学部に進学しました。高校生だった当時は、世間的に脳の機能や構造に注目が集まっている時期で、その影響もあり脳に興味を持つようになりました。しかし、脳について勉強していくうちに脳の構造よりも心理的な機能に興味を持つようになり、そのメカニズムを解き明かしたいと思うようになったのです。そのような分野に関連する職業はいくつかありますが、最終的には精神科医として携わりたいと思い、北里大学医学部に進学しました。

大学卒業後は川崎市立川崎病院で初期研修を受け、慶應義塾大学精神神経科学教室に入局しました。この医局は規模が大きく、さまざまな研究室があるのが魅力でした。最初は、認知行動療法や精神分析などさまざまな研究室の活動に参加していたのですが、最終的には社会精神医学の研究室に所属することとなりました。多くの研究室があったからこそ、その経験を活かして今の自分のキャリアを歩むことができたのだと思っています。

-なぜ社会精神医学を専門にしようと思ったのですか?

私が社会精神医学を専門にしようと思ったのは、研修医時代に予防の重要性を強く感じたからです。というのも、救急外来を回っていた時、同じような精神科的な症状の人が数多く受診している現状を目の当たりにしました。しかも、外来で治療や処置をしても、翌日に同じ理由でまた戻ってくる――。このような状態では、救急の現場が疲弊するばかりです。救急外来で対応しているだけでは解決できず、もっと早期の段階で介入する必要があると考えました。特に精神科疾患は若いうちに発症することが多いので、20年、30年前から介入しないと根本的な解決にはなりません。そのような経験から、精神科的な予防に携わりたいと考えるようになりました。

-これまで、キャリアパスで悩んだことはありますか?

大学院に入学した後、この先も精神科病院や総合病院で勤務医として経験を積み、場合によっては開業したり――という将来のキャリアがある程度描けるようになりました。もちろんそういったキャリアは医師として王道ですし、素晴らしいものなのですが、本当にそれでいいのだろうか、何か他の選択肢はないのだろうかと思い悩むようになりました。

そこで、精神疾患の予防に関する何か新しいことに挑戦がしたいと思いさまざまな勉強会に参加していたところ、多くのご縁があり、今のような3つの軸での活動につながっていきました。

現在、大学院というアカデミアの分野とベンチャー企業という草の根的な活動の両方に携わることができているので、その両方の視点を持ち続けながら精神科医として活動を続けていきたいですね。何より、医療の世界だけでなく、他分野の方と互いの専門性を活かしながら新しいことを創っていくのはとてもわくわくしますし、やりがいを感じています。

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医師プロフィール

鈴木 航太 精神科医

2010年北里大学医学部卒業。川崎市立川崎病院にて初期研修修了後、慶應義塾大学医学部精神神経科学教室に入局。医療法人財団厚生協会大泉病院などに勤務。現在は社会精神医学の研究の傍ら、HIKARI Lab株式会社、ドクターメイト株式会社の事業に携わる。精神科専門医、精神保健指定医、産業医。

鈴木 航太
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