教育の概念を広げたい
記事
◆「きょういく×カフェ」と「トビラボ」
―現在、教育に注力されていると伺いました。その背景を教えていただけますか?
医学生時代に暗記ばかりの医学教育に相当嫌気がさしていたところ、総合診療系の勉強会に参加し、そこでの勉強が面白く、再びモチベーションを取り戻したことから、教育に興味を持つようになりました。そのため、初期研修医の頃から、積極的に教育に携わるようにしていましたが、ただ教育するのではなく、教育の「方法」にも目を向け始めるようになりました。
そのきっかけは、研修先として有名な音羽病院に後期研修で行ったことでした。指導してくださる先生方が話す知識は非常に高度で勉強になりました。ところが、研修医にとって非常に有益な情報を教えてくださっているのに、自分たち研修医は簡単に飲み込めなかったり、診療に落とし込むことができなかったりしていました。「これはもったいない、もう少し教え方を変えれば研修医でも噛み砕いて理解できるようになるのでは」と考え始めるようになったのです。
また「教育はこうあるべき」「こうやったほうがいい」という固定観念を持ってしまいがちですが、そうすると教育の幅を狭めてしまうと感じています。例えば自分の伝えたいことは、スライド資料では伝わらないかもしれないと思ったら、資料は見せずに講義をしたっていいわけですし、自分が伝えたいというより考えてほしいと思ったら、もっと違う形の講義をしたっていいわけです。
そのようなことを考え、教育の幅をもっと広げたいと思うようになりました。そこで教育の「方法」について試行錯誤を繰り返しした結果、今取り組んでいるのが「きょういく×カフェ」と「トビラボ」としての活動です。
―「きょういく×カフェ」と「トビラボ」はそれぞれどういった内容なのでしょうか?
「きょういく×カフェ」の始まりは日本医学教育学会です。学会には、教育に興味のある自分と同世代も大勢参加しているのかと思っていましたが――実際には私から見ると偉い先生方ばかりで、病院をどうするか、日本の医療をどうするかという話が多かったのです。当時の私には背伸びをしなければいけない話題が多く、それよりももう少し身近な現場レベルでの教育について話したいと思っていました。そこで、医学教育学会に参加していて教育を変えたいと考えている数名の同世代と一緒に、何かやろうと始めたのです。
当初は、参加者が自分と同じ方向性の人に出会い、何かを始めるきっかけになる場所として機能させようと、似た指向性の人同士で数名のグループを作り、ワークショップをやってもらっていました。しかし指向性の近さよりも、短期間同じことに取り組むことのほうが参加者へのインパクトが大きいことに気づき――現在は少し形を変えて、指向性に関係なくグループになってもらい、次の「きょういく×カフェ」までの間に、グループごとに決めたプロジェクトに取り組んでもらう形にしています。毎回10~15人程度の人が全国から集まって参加しています。今年8月に開催した回で12回目になりました。
「トビラボ」の活動では”キャリア×ゲーム”が主テーマ。教育からさらに視点を広げ、キャリアの多様性について伝えていこうとしています。そこにゲームの要素を取り入れいるイメージです。運営メンバーに共通しているのが、いわゆる既定路線のキャリアから外れていること。ちょっと脇道に入ったところに面白いことがたくさんころがっているということを伝えようとしています。将来の進路を考えるときの選択肢を増やしてほしいのです。
医師プロフィール
近藤 猛 総合診療医
愛知県出身。2006年名古屋市立大学卒業後、JA愛知厚生連海南病院にて初期研修修了。2008年より洛和会音羽病院総合診療科にて後期研修。2011年より名古屋大学医学部附属病院総合診療科に入局、病院内外で教育に携わっている。