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100歳まで歩ける社会をつくりたい

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医師5年目にキャリアシフトし、筋骨格系疾患の予防に取り組んできた岡部大地先生。「足」「歩行」をキーワードに医師起業家として活動を続けてきました。投資家30人から「それでは絶対に事業化できない」と言われたこともあったそう。そんな中、一気に風向きが変わった瞬間がありました。前回、インタビューしたのが2018年。その後5年間の変遷を伺いました。

◆健康増進から重症化予防へピボット

前回インタビューさせていただいたのは2018年でした。その後の5年間は、どのようなことに取り組まれてきましたか?

バスケットボールのピボットのように、軸は1カ所に定めながらもいくつかのサービスをリリースしながら模索してきました。前回のインタビュー時には、美脚づくりのための専門サイト「Mikara美脚」をリリースしたところでした。美脚づくりを切り口に、筋骨格系疾患の予防につなげたいとの思いからです。

その直後から「スマートヒール」の開発を進めました。ヒールに取り付けたセンサーと同期させ、スマホのアプリから音声で歩き方を指導する製品です。センサー付きのヒールでどのような歩き方をしているのか判断し、綺麗な歩き方を目指してもらう。その結果として、筋骨格系疾患の予防につなげたいと考えていました。

その後、開発したのは「ミラーウォーク」。据え置き型のカメラの前を通ると、歩く姿勢と点数がディスプレイに可視化され、AIが自分にあった歩き方をアドバイスしてくれます。そもそも、多くの人が自分の歩き方を見たことがありません。そのため、自分の歩き方の良し悪しはよく分からないですよね。自分の歩き方が客観的に見えることで、綺麗な歩き方に改善していけます。

これらの活動を通して実現したかったのは、手術が必要になる前に、整形内科的なアプローチによって痛まない体をつくること。別の言い方をすると、スマートヒールで1次予防、ミラーウォークで0次予防に取り組んできました。予防医療は環境改善を行う0次予防、健康増進を行う1次予防、早期発見・早期治療の2次予防、重症化予防の3次予防に分けられます。

2019年からは3Dプリンター製のオーダーメイドインソール「HOCOH(ホコウ)」を整骨院やオンライン経由で販売開始。2022年からは医療機関向けの「ASISTA(アシスタ)」を販売開始しました。アシスタインソールは医師が処方する治療用足底装具に分類され、オーダーメイドの治療用硬性立体インソールです。

硬性立体インソールとは、基盤の素材が硬く立体的なインソールのことです。下から硬く立体的に身体を支えるため、骨格(アライメント)を整える機能の高いことが最大の特徴です。硬性立体インソールは欧米で普及し始めているのですが、足病医学の発展が遅れている日本では普及していません。

―医療機関向けのアシスタインソールは、3次予防にくくられると思います。もともと0次予防や1次予防に取り組んできたところから、なぜ3次予防にピボットしたのですか?

個人的な思いとしては、筋骨格系疾患の0次予防の普及に取り組みたいと強く思っています。ただ、生活習慣病対策が3次予防から順に0次予防までたどり着きました。それなのに筋骨格系疾患対策でいきなり0次予防、1次予防で事業化するのは難しいと感じてきました。ミラーウォークを売り出そうとしていた時、投資家約30人に出資を依頼したのですが、軒並み「これは絶対に事業化できない」と言われてしまって……。

―0次、1次予防での事業化が難しかったのですね。

もちろん歩き方が重要であることは変わりないですし、アプローチ次第では事業化も可能だと思います。ただ、当時の私はビジネススキル不足で、アプローチも良くなかったと思います。0次予防や1次予防から、2次予防へ徐々に階層を上げて試行錯誤し、結果的に医療機関向けインソール販売という3次予防にたどり着きました。

ただ、3次予防領域には私が医師として社会課題を強く感じた原体験がありました。地方へ診療に行った際、足のトラブルがあり硬性立体インソールを処方した方が明らかによい患者さんがいたのに、硬性立体インソールを処方できないという体験をしていました。病院に硬性立体インソールを作れる義肢装具士が来ていなかったためです。

保険でインソールを処方するには、義肢装具士が対応しなければなりません。しかし義肢装具士の専門性や製作能力はバラバラで、硬性立体インソールの製作ノウハウも知られていません。そうすると、例え足にトラブルがあることが分かっていても治療できず、放っておくしかないことも――。足のトラブルを放置すればQOLの低下はもちろんのこと、フレイルや要介護を招きます。

患者も医療者も気づいていないだけで、適切に治療できていない患者が全国各地にいると私は思います。こういった社会課題を解決すれば事業を拡大できますし、ゆくゆくは予防領域を展開できます。そのため医療機関向けのアシスタインソールで3次予防に取り組むことが、筋骨格系疾患を0次予防まで普及させる最短コースだと現在は思っています。

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岡部 大地 先生の人生曲線

医師プロフィール

岡部 大地 株式会社ジャパンヘルスケア代表取締役医師

株式会社ジャパンヘルスケア代表取締役医師
1986年奈良県生まれ、2012年三重大学医学部を卒業。千葉大学予防医学センターにて医学博士を取得。下北沢病院非常勤勤務。足に合わせて3Dプリンタでつくる硬性立体インソール「ASISTA(アシスタ)」(病院向け)や「HOCOH(ホコウ)」を提供中。エビデンスに基づくインソールと足の健康診断を全国に届けることで、100歳まで歩ける社会を目指す。3児の父。川や海が好き。
ASISTA(アシスタ):https://asista-insole.net/

岡部 大地
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