アメリカのほうが早く一人前の医師になれる理由
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アメリカと日本では、研修医のトレーニング内容が大きく異なる。アメリカの研修医教育ではリーダーの育成に重点がおかれているのに対し、日本では……。
アメリカの方が短期間で臨床能力がつくのはなぜでしょう。それは、一日に見る患者(症例)数が圧倒的に多いからです。私が日本で研修医になり、入局した医局で最初の半年に経験した入院患者数は、たったの4人でした。これは、アメリカ内科研修で診る新規患者数の一日分にもなりません。アメリカでは病棟の回転が速く、研修医は毎日2人から5人の新入院患者を取ります。また、日本の研修医のような雑用がありません。
ちょっと話がそれますが、私が研修医だった頃の雑用や非効率性にどんな事があったか思い出してみます。
採血当番、外来処方当番、書き番(教授が口述したものをカルテに書く)などの仕事で、毎日午前中がつぶれました。午後2時を過ぎると看護師さんがオーダーを取ってくれなくなるので、その時間を過ぎると入院患者の翌日の採血は自分でやらなくてはなりませんでした。患者の急変などで夜間に採血データが必要なときには、採血後にサンプルを検査室に持っていき、検体を遠心分離後に測定機器にかけ、結果が出るまで機械の脇にへばりついていなくてはなりませんでした。患者の搬送も研修医の仕事でした。
何だか、昔を思い出していたらだんだん腹が立ってきたのでこの辺でやめますが、アメリカではこのような事はありません。アメリカの研修医トレーニングの目的は、将来の医療チームリーダーを育てることと解釈して良いと思います。患者の状態を把握し、検査治療プランを立てて医療チームを引っ張っていくリーダーの育成。主に頭のトレーニングで、手を動かす手技などに重点がおかれません。
ちょっと恨みがましいですが、検査オーダー(採血、X線写真、CTなど)は24時間いつでも出せますし(結果もすぐ出ます)、採血や患者の搬送などは専門のスタッフが行います。研修医教育の文化が根本で違うという感じです。
医師プロフィール
齋藤 雄司 循環器内科
新潟県出身。新潟大学医学部卒業後、同大学内科研修、大学院修了。血管生物学の基礎研究に従事するためポスドクとして渡米。その後、ロチェスター大学関連病院内科レジデント、カリフォルニア大学アーバイン校循環器フェロー、カリフォルニア大学サンディエゴ校心臓電気生理フェローなどの臨床トレーニングを行う。バッファロー大学内科クリニカルインストラクターを経て、現在は、カリフォルニア州モントレー郡の開業循環器グループに所属。不整脈を含む心臓病診療に従事する。