年間50万件以上! 世界に広がるロボット手術
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手術支援ロボットの開発は1990年代NASAやスタンフォード大学などをはじめとする米国の施設で始まり、戦場における遠隔手術を目的に研究が進みました。その結果、ダヴィンチ(da Vinci)やゼウス(Zeus)といった手術専用のロボットが開発されたのです。ゼウスは2001年に米ニューヨークと仏ストラスブール間での胆嚢摘出術を実現しました。この遠隔手術は1927年に大西洋の単独無着陸飛行に成功したチャールズ・リンドバーグになぞらえて「リンドバーグ手術」と呼ばれています。現在はダヴィンチのみが販売されていますが、米国では最新機器として第4世代のダヴィンチ Xiが販売されています。
ダヴィンチは、3つのコンポーネントから構成されるマスター・スレイブシステムを有する手術支援ロボットです。操縦台にいる執刀医はハイビジョン3次元モニターに映る術野を見ながら手元のハンドルを操作することでロボットアームに設置されたロボット鉗子を直感的に動かすことができます。ロボット鉗子は人間の手のような自由な動きをし、先端の形状も50種類以上が準備されています。更にその鉗子の動きにはコンピューター制御による動作縮小機能、手振れ防止機能などが付加されています。これらの機能により執刀医はあたかも患者さんの体の中に直接手を入れて体内で繊細な縫合、結紮を行うような感覚で高度な内視鏡手術を行うことができるのです。
2014年末現在、世界では3000台以上のダヴィンチが導入され臨床で使用されています。昨年は全世界で年間50万件以上のロボット手術が行われました。そのうち最も多いのは婦人科領域であり、次いで泌尿器科へと続き両領域の手術で全体の7割を超えています。
一方、日本国内では2014年末現在、189台が導入され、日本はアジア最多のダヴィンチ保有国となっただけでなく、米国に次ぎ世界第2の保有国となっています。2014年の年間手術件数は1万件弱であり、ロボット1台あたりの手術件数は外国に比べて非常に少ないことになります。これは日本の医療制度に原因があります。国内でロボット手術が保険適応となっているのは前立腺がんに対する手術だけなのです。他の領域では先進医療として胃がんや腎がんなどに対する研究がやっと始まったところです。
日本は欧米では既に認められている先進的な医療技術や新規薬剤がなかなか導入されにくい傾向があります。国民の安全を第一に国内へ導入をはかりたい厚生労働省の考えなのですが、もう一つは年々高騰する医療費の問題もあるようです。ただ、患者さんのメリットになる医療はできるだけ早く一般の方に解放されるように願っています。我々はそのために新しい医療がデータ的にも優れているということを示していかなければなりません。
医師プロフィール
渡邊 剛 心臓外科
東京都出身。ドイツHannover医科大学にて、ドイツ心臓外科の父と呼ばれるHans G Borst教授に学び、2年半の臨床留学中2000件にわたる心臓手術を経験。チーフレジデントとして又、32歳で日本人最年少の心臓移植執刀医として活躍。帰国後、2003年に人工心肺を用いない心臓を動かしたままのバイパス手術(心拍動下冠動脈バイパス手術(OPCAB))を成功させる。41歳で金沢大学心肺・総合外科の教授となる。また心臓アウェイク手術(自発呼吸下心拍動下冠動脈バイパス術)や、外科手術用ロボットの"ダヴィンチ"を使った心臓手術など日本で初めての手術を次々に成し遂げる。低侵襲冠動脈バイパス手術の経験は日本で最も多く、手術の成功率は99.6%。現在、日本で唯一ロボット心臓手術を行っており「心臓外科のブラック・ジャック」と呼ばれる。国際低侵襲心臓手術学会(ISMICS)のBoard Directorを務めるなど、国内外の心臓外科領域の進歩に大きく貢献。2005年から2011年6月まで、東京医科大学の新設“心臓外科”初代教授として金沢大学と兼任。2014年5月ニューハート・ワタナベ国際病院を開設し、総長として就任。