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ロボットが可能にする! 低侵襲の心臓外科手術

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記事

日本におけるロボット手術の第一人者、ニューハート・ワタナベ国際病院総長の渡邊剛先生が語る最先端のロボット心臓手術の実際。

私は2005年からダヴィンチを用いたロボット心臓外科手術を始め、現在までに270例以上の手術を行ってきました。症例の多い3つの疾患についての手術の実際をお話しする前に、一般的な心臓手術の話をする必要があります。

長く行われてきた標準的開心術は、胸の真ん中を大きく開いて(胸骨正中切開)心臓を止めた(心停止)状態で手術を行います。この術式は胸骨正中切開することで出血や感染のリスクが増し、手術後の運動制限も加わります。また心停止にともない人工心肺という装置を使用する必要が出てきます。

そういった多くのリスクを減らすために、私は心臓を動かしたまま冠動脈バイパス術を行う新しい手術を初めて日本に導入しました。

◆心筋梗塞や狭心症に対するロボット手術

胸骨正中切開を行わずに数カ所のバイパス手術を行うことができるようになりました。ロボットにより3カ所の小さな穴(ポート)だけからバイパスに使用する内胸動脈を剥離します。その後、肋間に小さな開胸創をつくり直接目で見ながら冠動脈と吻合します。この術式をThoraCABと呼んでいます。

さらに吻合そのものもポートのみから行う完全内視鏡下の冠動脈バイパス術(TECAB)も行えるようになりました。これらの術式は体への負担が少なく術後数日で退院が可能です。

 

◆弁膜症に対するロボット手術

僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術に対しては、ロボットを用いることは極めて有効です。従来の手術よりもより良好な視野のもと拡大視ができることや、生理的なポジションで僧帽弁の観察ができることなど大きな利点を有しています。

この術式はポートのみで行う完全内視鏡手術です。術野を間近に見ながら正確な弁の形成ができるという点から、正中切開の通常手術では難しい複雑な形成術を行うことが可能になります。

 

◆先天性心疾患に対するロボット手術

「生まれつき心臓に穴があいている」と表されることの多い心房中隔欠損症に対してもロボットは威力を発揮します。我々のチームでは、最近はポート2つのみでこの術式を完遂できるようになりました。若年の患者さんも多いこの疾患では、美容的にも優れているこの術式が大変喜ばれています。

以上のように、どの領域に関してもロボット手術はさらなる低侵襲手術を可能にするものであり、心臓領域ではその困難さ故に開発が遅れていた完全内視鏡手術が可能となりました。ロボット手術は整容性に優れることはもちろん、胸骨正中切開を回避できることによる合併症や輸血の軽減、早期社会復帰を可能にするなど多くの福音をもたらす次世代の手術と考えています。

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医師プロフィール

渡邊 剛 心臓外科

東京都出身。ドイツHannover医科大学にて、ドイツ心臓外科の父と呼ばれるHans G Borst教授に学び、2年半の臨床留学中2000件にわたる心臓手術を経験。チーフレジデントとして又、32歳で日本人最年少の心臓移植執刀医として活躍。帰国後、2003年に人工心肺を用いない心臓を動かしたままのバイパス手術(心拍動下冠動脈バイパス手術(OPCAB))を成功させる。41歳で金沢大学心肺・総合外科の教授となる。また心臓アウェイク手術(自発呼吸下心拍動下冠動脈バイパス術)や、外科手術用ロボットの"ダヴィンチ"を使った心臓手術など日本で初めての手術を次々に成し遂げる。低侵襲冠動脈バイパス手術の経験は日本で最も多く、手術の成功率は99.6%。現在、日本で唯一ロボット心臓手術を行っており「心臓外科のブラック・ジャック」と呼ばれる。国際低侵襲心臓手術学会(ISMICS)のBoard Directorを務めるなど、国内外の心臓外科領域の進歩に大きく貢献。2005年から2011年6月まで、東京医科大学の新設“心臓外科”初代教授として金沢大学と兼任。2014年5月ニューハート・ワタナベ国際病院を開設し、総長として就任。

渡邊 剛
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