「春眠暁を覚えず」春先に眠気を感じる2つの理由
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身体は、気温が変化しても一定の対応を保つよう自律神経によってコントロールされています。寒い時期は体温が逃げないように血管を収縮させ、暑くなると血管を広げて熱を放出します。春は気温の変動が激しいために、自律神経はその変化についていこうと必死に働きます。
自律神経は昼と夜で身体のリラックスと緊張モードを切り替えるという働きも担っているので、このリズムが狂うと本来緊張状態で活動するべき昼間に、夜用のリラックスモードとなり眠気を誘うという可能性も出てきます。
これに加え脳内で分泌されるメラトニンの影響も考えられます。メラトニンは暗さを感じる事で分泌を始め、睡眠へ誘導する脳内物質です。冬の間は日照時間が短いのでメラトニンの分泌量も増え、日が長くなるにつれて分泌量が減っていくというサイクルで1年が経過します。春先には日照時間は長くなっていますが、メラトニン分泌量が冬のパターンを引きずっているとその時期にしては多すぎる睡眠誘導物質が体内にあることになります。
春先に眠いという症状は多くの場合この2つの要因が重なってのことと考えられます。
一方、転勤、進学、異動など環境の変化に伴うストレスで寝つきが悪くなる事も昼の睡眠不足の大きな原因です。ストレスがかかった状態が続くと自律神経への負荷となり睡眠のリズムを狂わせ、不眠を招くことがあるので注意が必要です。
また花粉症の人は睡眠中の鼻づまりやくしゃみ等で睡眠の質が下がる事に加えて抗ヒスタミン剤の副作用で眠気がおこりがちです。眠気が出にくいタイプの抗アレルギー剤や漢方もあるので、毎年花粉症の時季になると眠くなるという人は医師に相談してみてください。
いくら春が眠いといっても眠すぎるという人は眠気の原因を探る事が大切です。春に限らず日常的に昼間に眠気を感じる、居眠りをしてしまう、というのなら睡眠障害かもしれません。ひどい場合はナルコレプシーといって昼間に耐えられないほどの眠気を感じ、時間や場所を問わず居眠りを繰り返したりします。思い当たる場合は医療機関の受診をおすすめします。
◆具体的な眠気対策は?
季節や環境の変化に対する生理現象として眠気が起こっている場合は生活習慣を見なおしてください。必要な睡眠時間には個人差がありますが7〜8時間程度を目安に毎日できるだけ決まった時刻に起床・就寝し、休日の朝寝坊は体内時間を狂わせないために1時間を限度としたほうがよいでしょう。目覚めたらカーテンを開けて太陽の光を浴び、体内時計をリセットしてから1日をスタートします。41度以上の熱いシャワーを浴びると交感神経が活発になって身体が目覚めます。また朝食をきちんと取ることで体温が上がり、脳にエネルギーが供給されてスタンバイの状態になります。
日中の眠気はガムを噛む、ストレッチをする、席を立って歩く、冷たい水や外気に触れる、誰かと話すといった方法である程度は緩和できます。どうしても眠気が解消できない場合はコーヒーなどを飲み20分程度のプチ昼寝をして頭と身体を休めます。カフェインは眠気覚ましの効果が現れるまでに30分程度かかるのでちょうど目覚める頃にカフェインの覚醒作用が現れ出してすっきりと目覚められます。
暖かくなって身体の各器官の動きが活発化すると糖質や脂質から盛んにエネルギーをつくる必要があり、脳に送られる血液量が減るため眠くなります。エネルギー交換の際にはビタミンB群等が大量に消費されこうした栄養素の不足が疲れやだるさ、春の眠気を招いているといわれています。豆類や豆腐などビタミンB群を豊富に含む食品を積極的にとり、食事だけで補うことが難しい場合はサプリメントで補給するなどしてビタミンバランスの調整を心がけましょう。
医師プロフィール
玉木 優子 内科・心療内科
たまきクリニック院長。東京生まれ。1987年北里大学医学部卒。
東京大学附属病院、筑波大学病院、北里研究所付属東洋医学研究所を経て、2008年より現職。
日本東洋医学専門医、日本プライマリケア学会認定医。老人ホーム・身障者センター・企業の産業医、学校医・園医、よみうり文化センター気功講師など行いながら、心療内科を中心に西洋医学と東洋医学を融合した統合医療を行っている。