内視鏡で食と炎症を“Focus”する
記事
今回は、FODMAPを「消化器内科的」にみた論文をご紹介します。細胞レベルで私たちは何を考えて日々の研究や医療を行なっているのか、医療者レベルでどこが問題点なのか。消化器内科が得意とする「形態学」をのぞいてみていただければと思います。
過敏性腸症候群(IBS)の患者さんに大腸内視鏡検査を行なっても、特に異常を認めません。組織を数mm摘んで、さらに顕微鏡で詳しく調べても、軽い炎症所見があるかないか程度です。
今回は、共焦点内視鏡(超拡大内視鏡)という特別な内視鏡をもちいて、いくつかの食物負荷を与えたときの、粘膜形態変化を評価したGastroenterology誌の論文をご紹介します。
「共焦点」というのはむしろ基礎研究の先生方になじみがある名前かもしれません。免疫染色光源の光をサンプル上で反射させ、検出器で受光する仕組みです。さらに焦点があった部分のみ光を吸収するので、散乱光の影響を受けにくく、高解像度の画像が得られます。よって、非常に微細な組織観察において、共焦点顕微鏡が使用されています。
<方法>
対象:36名のIBS vs 10名のバレット食道患者(コントロール)
2週間前
・通常内視鏡観察。十二指腸より粘膜生検
当日
・内視鏡側管より、牛乳、小麦、イースト、大豆を薄めた液体をランダムで注入
・フルオロセイン(蛍光色素)を静注し、共焦点内視鏡にて十二指腸粘膜構造観察
→粘膜細胞間の解離、絨毛間隙、表皮内リンパ球を計測
・2週間前の生検場所とほぼ同部位より再度生検
その後4週間後、1年後経過観察
・変化あり群は原因食品の制限を行い、腹部症状評価
1年後
・変化あり群9名は、一年後に上記再検査
※内視鏡は静脈麻酔下で施行
<結果>
・IBS 22名に食事抗原に対する粘膜炎症反応あり
・食事刺激後5分で、粘膜に有意な炎症変化出現
(牛乳9名、小麦13名、イースト6名、大豆4名)
・生検病理検体と内視鏡の所見一致度は70.6% 有意相関なし。
・疑わしい食品制限4週間後、50%が腹部症状改善、1年後74%改善
・1年後の再度食事刺激では、症状改善者でも1年前と同様の反応性示した
リアルタイムの介入観察
共焦点内視鏡を用いることで、食物刺激(水溶液だが)直後の反応を観察した研究。手法がとてもユニークです。1年後、症状改善時に再度食物反応性を調べ、反応性が残っていたという結果も興味深いです。
病理所見との解離について
顕微鏡での観察所見と病理検体での所見が相関していませんでした。刺激早期、もしくは軽度の炎症を顕微鏡で捉えたのではと著者らは考察しています。抗原刺激後5分程度の観察であり、他の炎症性サイトカイン出現までの時間を考えると、両者の解離は理解できるかもしれません。
IBSと食事について
IBSの十二指腸の反応について、脂肪注入試験と自律神経の研究、胆汁分泌の関係など多々報告がなされています。反応がでた食物が、慢性的な症状に結びついているのか、牛乳や穀類はメジャーな食品であり、粘膜の炎症と症状の関連などについて、今後のさらなる研究が期待されます。
医師プロフィール
田中 由佳里 消化器内科
2006年新潟大学卒業、新潟大学消化器内科入局。機能性消化管疾患の研究のため、東北大学大学院に進学。世界基準作成委員会(ROME委員会)メンバーである福土審教授に師事。2013年大学院卒業・医学博士取得。現在は東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門助教。被災地で地域医療支援を行うと同時に、ストレスと過敏性腸症候群の関連をテーマに研究に従事。この研究を通じて、お腹と上手く付き合えるヒントを紹介する「おなかハッカー」というサイトを運営。また患者の日常生活課題について多職種連携による解決を目指している。
【おなかハッカー】