体系立った教育理論を学び、総合診療医育成に注力する
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◆総合診療医の育成に携わる
―現在取り組んでいることから教えてください。
現在臨床では、千葉大学医学部附属病院の総合診療科での勤務に加え、週1回、私の出身地近隣の千葉県いすみ市のいすみ医療センター総合診療科で外来もしています。大学病院で最後の砦としての役割と地域でのゲートキーパー役、どちらも経験させていただいています。
診療以外には、医局で総合診療医育成に携わらせていただいたり、病院外でも、診療技術以外にリーダーシップや人を育てるために必要なスキルを磨くための「育星塾」や、人口10万人当たりの医師数がワースト2位の千葉県で研修している医師達がその後も千葉県の医療に従事してくれるよう、所属組織を越えたつながりを作るプラットフォームである「新撰医チバ」で代表をしています。新撰医チバは2016年からスタートしていて、現在約1500名もの医師が参加しています。
新撰医チバ:https://shinsenichiba.jimdo.com/
―若手医師へのアプローチに割く時間が多い印象ですね。教育に携わるようになったきっかけはなんでしょうか?
私は千葉大学を卒業後、市中病院で初期研修を修了して、臨床推論のスキルを高めるために千葉大学医学部附属病院総合診療科で後期研修を受けました。千葉大学病院にいると、やはり医学生や初期研修医など、若手がたくさんやってきます。年間で医学生は130名、初期研修医は40名程が見学や実習、研修にやってくるのです。そんな若手を見ていて、徐々に人材育成に力を入れていきたいと気持ちの変化があり、育成に積極的に携わっていくようになりました。
―なぜ若手育成に携わりたいと気持ちが変化したのですか?
私が総合診療科を目指すきっかけになった生坂政臣教授から、自分自身が多くのことを学ばせていただき、それが面白かったというのが1つ。
あとは当時、見学や研修に来る若手に接する中で、まだまだ総合診療に対する認知度が低く、もっと認知してもらうには教育が必要なのではないかと考えたのです。大学病院内で、他の診療科の先生方からも理解されていない感覚もあり、もどかしさを感じていました。
そして医療が回らない地域にはもっと総合診療が必要であり、自分自身がスキルを高めるのはもちろんですが、育成して増やしていくことも重要なのだと気付いてきたのです。
◆臨床推論に魅了された
―そもそも鋪野先生は、なぜ総合診療医を志したのですか?
学生時代は、内科系のさまざまな診療科に興味がありましたが、総合診療医を目指すことを決めたのは、大学5年生の時でした。病院実習で総合診療科をローテートした時に、生坂教授に出会い、総合診療に魅了されて、以来一貫して総合診療医を目指してきました。
―どのような点に魅了されたのでしょうか?
総合診療は、患者さんの話を聞くだけ、つまり病歴で約8割の診断ができると言われています。もちろん身体診察など他のスキルも必要ですが、患者さんの話を聞いて、それに基づき診断する。このスキルさえあれば、身一つで、離島やへき地の診療所など、どんな設定でも診療できるわけです。その普遍的なスキルを持つことに大きな魅力を感じました。そして総合診療科では、それに特化したトレーニングが積めるので、ぜひこのスキルを身につけたいと思ったのです。
◆総合診療の教育拠点を増やすために
―今後のご自身のキャリアはどのように考えているのですか?
私自身は、今後も総合診療医育成に力を入れていきたいと考えています。先程も言いましたが、総合診療医はまだ絶対数が足りず、他の診療科の先生方や医学生に正確に認知されているかというと、まだまだ足りていない部分があると思います。
理由の1つには、体系立って総合診療医の教育方法を学んでいる総合診療医が、まだ国内にいないことが挙げられるように感じています。体系立って学んだ医師がいなければ、体系立って指導できる人材も出てきません。
そこで私は2018年9月から、マサチューセッツ総合病院で医療専門職教育の修士課程で教育理論を、一からしっかり学ぶことにしました。アメリカへは年に数回赴いて現地のワークショップに参加しますが、あとは千葉県での勤務を続けながらオンラインで受講できるコースです。オンラインでは毎週の課題に加え、指導教官とのface to faceでのディスカッション、同僚との意見交換を通じて、エビデンスに基づく医学教育を学習しています。これらの経験を活かして、今後も総合診療医の育成にも注力し続けたいですね。
教育環境を整えれば、総合診療に興味を持つ若手医師も増えるのではないかと考えています。そんな教育の拠点病院を今後つくっていくためにも、まずは千葉大学内での総合診療医育成に力を入れていきたいです。
(取材・文 / 北森 悦)
医師プロフィール
鋪野 紀好 総合診療医
千葉大学医学部附属病院 総合診療科/総合医療教育研修センター 特任助教
千葉県出身。2008年千葉大学を卒業後、千葉市立青葉病院にて初期研修、千葉大学医学部附属病院総合診療科にて後期研修を修了。以来一貫して、同診療科、そして2013年からは同病院総合医療教育研修センターとの兼任にて総合診療医の育成に携わる。2017年より同病院総合診療科後期研修プログラム(家庭医療コース)プログラム責任者を務めている。2018年より米国総合内科学会日本支部Public Relations Committee委員に就任している。