徳島にプライマリ・ケア教育を根付かせる
記事
◆病院で家庭医療のエッセンスを教える
―現在、どのような活動をされているのですか?
私は徳島大学医学部総合診療科の医局に所属していますが、2013年から亀田ファミリークリニック館山に内地留学していました。2017年4月に再び徳島大学の総合診療科に戻り、現在は同科助教のポストを持ちつつ、県南部にある県立海部病院(徳島県海部郡牟岐町)で臨床業務や後進の指導に従事しています。
徳島大学の医学生が1週間、海部病院で地域医療実習を受けています。初期研修医だと、徳島県立中央病院の初期研修医たちが必ず1カ月間、海部病院での地域医療研修を受けます。また、徳島大学病院の初期研修医のうち希望者も、海部病院で地域医療研修を受けています。医学生や研修医たちは海部病院に泊まり込み、当院や周辺の診療所で実習を受けるので、海部病院はいわば、地域医療研修の中心地になっているんです。
徳島大学病院からの初期研修医がみな、高い満足感を得て帰るので、年々希望者が増えていますね。これまでは毎月1名ずつ研修医を受け入れることが多かったのですが、今年度は毎月2〜3名受け入れている状況です。
―河南先生が後進指導に携わる背景には、どのような思いがあるのですか?
亀田ファミリークリニック館山で内地留学したことが、1つの転機になりました。自分や自分の家族が病気になった時に勧めたいのは、亀田にいるような家庭医の先生方だと思いましたし、自分もそのような医師になりたいと思いました。そして、全国にこのような医師がもっと増えるべきだと思ったのです。
一方、徳島県内には、亀田の家庭医の先生方と同じようなことを考え、日々地域住民の方の健康を守るために奮闘されている先生方はいますが、それを体系立てて言語化して教えられる医師はほとんどいません。なぜなら、徳島県内には体系立てられた研修ができる施設がなく、後輩を育てていくシステムがなかったからです。
内地留学を経て私は、そのようなシステムと教育できる人材が徳島にも必要だと痛感したのです。そして自分がその役割を担いたいと思い、より一層教育に力を注ぐようになりました。
―河南先生としては、家庭医療を後進の先生方に教えていきたいということですか?
私は診療所レベルでの外来診療を主体とし、小児から高齢者まで幅広く診られる家庭医療であり、確かに家庭医療を実践し、後輩にも教えていきたいと考えています。そのため、今のポジションと本当にやりたいことの間にギャップがあるのは事実です。しかし徳島大学総合診療医学分野は、立ち上がって10年少々しか経っておらず、これからさらに発展させていかなければいけませんし、医局員も少なく、現在の臨床業務と教育で手一杯の状態です。
ちょうど私が徳島に戻ってきたタイミングで、岡山家庭医療学センターで指導医をされていた先生が徳島大学病院総合診療部に着任されたので、家庭医療を実践したいと考えている医師が複数名います。しかし今言ったように、家庭医療を実践するために大学を出てどこかに診療所を構えるほど人員が充実しているわけではないので、家庭医療の実践は、今のところ考えていません。
ただし、大学だからこそできることもあると思っています。例えば徳島大学の医学生や初期研修医に、プライマリ・ケアを知ってもらえること。大学から離れたところで実践していたら、今ほどプライマリ・ケアにばく露させることはできないと思います。亀田ファミリークリニック館山で実践されているような家庭医療はできなくても、病院で家庭医療の持っている診療の作法には触れてもらうことができます。そのメリットは、自分が診療所で家庭医療を実践するより大きいと考えています。
特に在宅医療で終末期の患者さんも診ているので、1カ月の地域医療研修の間にお看取りまで経験してもらうことがあります。また、毎月1回必ず地域のあちこちで健康教室を開催することを私のルーティンにしているので、そこで研修医にもちょっとした講話をしてもらい、地域の方と直接触れ合ってもらっています。
もともと徳島県内で家庭医療を実践している先生がほとんどいらっしゃらないので、このような経験も、医学生や研修医にとっては十分新鮮な経験になっています。
医師プロフィール
河南 真吾 家庭医
徳島大学総合診療医学分野助教/徳島県立海部病院総合診療科
千葉県出身。2009年徳島大学医学部を卒業、同大学病院プライマリ・ケアコースにて初期研修を修了し、同大学総合診療医学分野に入局。徳島県立中央病院消化器内科にて研修ののち、2013年から2017年まで亀田ファミリークリニック館山で家庭医療の研修を受ける。2017年より現職。