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医療データの最適化で、ばらつきのない医療を実現する

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「データを活用して医療のばらつきをなくしていきたいのです。」そう語るのは、自身が起業した会社で質の高い医療実現のため、新たなITサービスの開発に尽力する二宮英樹先生。起業することを大学6年生の時から志し、医師の道からデータサイエンティストの道へと歩き出します。そんな二宮先生を突き動かす、医療界の抱える課題と医療のばらつきとは――?

◆情報の最適化で実現する安定した医療

―当初は脳神経外科に進もうと考えていたそうですね。

そうですね。脳神経外科医を目指したのは、脳神経外科医で北原国際病院の理事長である北原茂実先生の影響を強く受けたからです。また、脳外科分野は奥深くいまだに分からないことが多いため、それを紐解いていくところに、純粋に面白さと魅力を感じました。

―脳神経外科医を目指し、後に起業を決意されたのはなぜですか?

もともと大学6年生の時から、いつかは起業しようと考えていました。そして医師として研さんを積む中で人が病気を患ったとき、必ずどこかにそれを治療できる医師がいるはずですが、患者さんと医師との適切なマッチングができてない、という課題感を抱くようになりました。必ずしも必要な医療が、必要な患者さんにしっかりと届いていない――。それを情報の力で解決できるのでは、と思うようになったのです。

また、これは自分自身が痛感したことでもありますが、医師や病院によって言うことが異なり、治療方針も異なることにも課題を感じていました。これはおかしいと思い、情報を最適化することで医師や病院によって診断や診療のばらつきを無くせたら、と考えました。これらの課題感をきっかけに株式会社データックの起業を決意しました。

◆医療システムを事業化する難しさ

―株式会社データックでは、脊椎外科特化型問診アプリ「Ortho Expert」を開発されていますが、開発に至った経緯を教えてください。

医療界においてデータ化されているものは、基本的に血液検査を中心とした検査値や画像、ゲノム、レセプトのデータです。しかし、患者さんの困りごとそのものや生活の質に直結する「症状」のデータは、ほとんどデータ化はされていません。これは症状を聞き取る問診が、医師の個人技で行われているためです。そのため、症状を使いやすくデータ化することは、非常に価値があると思いました。

中でも、脊椎外科は症状自体が重要な判断材料となるため、症状のデータを使いやすい形にすることで、医療の質を向上させることにつながると考えました。ちょうどその頃、稲波脊椎・関節病院の金子剛士先生と稲波弘彦院長が、そのような取り組みをしたいとのことで、脊椎外科特化型問診アプリの開発に至りました。

―問診アプリの他に、おくすりチャットボットの開発にも着手されているそうですね。開発のきっかけは何だったのでしょうか?

現在は、妊娠・授乳領域からおくすりチャットボットを開発しています。妊娠した女性への治療方法は確立したエビデンスが少ないため、ちょっとした疾患でも、医師が診察してくれずに病院をたらい回しにされてしまうことに課題感を持ったことがきっかけです。例えば、皮膚科のお薬をもらう時、産婦人科に行ったら「それは皮膚科で出してもらって」と言われ、皮膚科に行ったら「それは産婦人科で出してもらって」と言われてしまう。実際には、きちんと書籍や英語文献などで調べれば対応できるはずです。ただ、調べるのには非常に時間がかかってしまいます。そのため、その情報を使いやすい形で1カ所にまとめようと思ったのです。

このシステムの使用対象者は、基本的に医師と薬剤師。良い医療を提供したいけれど、調べるのに時間がかかり困っている医師が、調べる時間を圧倒的に短縮できるツールとして活用してもらいたいと考えています。

―事業を始めて、苦労したことはありますか?

事業を始めて感じたのは、「nice to haveは必ずしも事業化できない」ということ。医療界において問診アプリやおくすりチャットボットなど、あれば便利なものはいくらでもあります。しかし、それを商品として売り出してお金を払ってもらえるかは、また別の話。私自身は、脊椎外科特化型問診アプリ「Ortho Expert」やおくすりチャットボットが世の中にとって本当に必要なものだと思い、一緒に開発している研究者も賛同してくれますが、そこに簡単にお金は生まれない――。お金を稼ぐことは難しいとまさに今、痛感しています。

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医師プロフィール

二宮 英樹 脳神経外科

福岡県出身。2013年に東京大学医学部医学科を卒業、2015年から関西医科大学枚方病院脳神経外科にて勤務後、株式会社メドレーを経て、株式会社トライディアにて一般企業向けデータ解析・AI開発に従事。2018年には株式会社データックを創業、代表取締役を務める。脊椎外科特化型問診アプリ「Ortho Expert」やおくすりチャットボットの開発、導入を行っている。慶応義塾大学医療政策・管理学教室博士課程在学中。

二宮 英樹
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