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腸内細菌から代謝疾患の予防をめざす

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記事

肥満や糖尿病の予防のため、現在理化学研究所で腸内細菌の研究を行っているのは、糖尿病内科医の竹内直志先生。幼い頃に、恵まれた国と貧しい国の残酷な格差を見たことで、貧困で苦しむ人を救うため医師を目指します。ところが途上国でのある経験と、論文との出会いがきっかけで医師から研究者へシフトします。研究の道へ背中を押したそのきっかけとは――?お話を伺いました。

◆腸内細菌から代謝疾患の予防を

―先生の研究内容について教えてください。

現在、私は理化学研究所(理研)粘膜システム研究チームの大野博司先生の指導の元、腸内細菌が粘膜免疫や疾患に及ぼす影響の解析を行っています。腸内細菌を研究することで、肥満や糖尿病などの代謝疾患の予防につながると考えています。

―現在は理化学研究所に在籍されているのですね。

聖路加国際病院での後期研修3年目の時、慶應義塾大学在学中に免疫学でお世話になった小安重夫先生(現理化学研究所理事)から、理研に腸内細菌を専門に研究されている先生がいるということで紹介していただいたのが、大野先生でした。聖路加は後期研修が4年間あるので、当初は4年間研修をして大学院に進もうと考えていました。しかし、大野先生から「来年度から糖尿病のこともやります」と聞いて、この機会を逃したくないと考えた末に理研へ移ることにしました。

また、先生方から博士号を取ることは研究のキャリアを考える上で重要だろうとアドバイスをいただきました。そのため、現在は連携大学院制度を利用して理研で研究しながら慶應義塾大学院博士課程に籍を置いています。

◆腸内細菌がひらいた研究への道

―ところで、なぜ医師を志したのですか?

小学生の時に、熱帯学や公衆衛生学の研究者だった父の仕事の関係で、イギリスとブラジルに行きました。イギリスでは、ケンブリッジ大学のパブリックスクールに数カ月間いて、いわゆる上流階級の方たちが集まるような非常に恵まれた環境でした。その一方で、ブラジルでは、インフラはほとんど整備されておらず、はだしの子供たちが走り回っているスラム街のような場所も訪問しました。

全く両極端な環境で過ごしたことで感じたのは、世界にはさまざまな人たちがいて、恵まれている人もいれば貧しい人もいる――。幼いながらに非常にショックを受けたことをよく覚えています。これがきっかけで、貧しい人を救いたいと感じ、中でも医療の面から貧困に携わろうと思い医師を目指しました。

―初期研修修了後、なぜ糖尿病内科を選んだのですか?

当時から、途上国の主要な死因として代謝疾患が増加傾向にあり、また、貧困が背景にある病気として糖尿病などが注目されつつありました。そのため、今後医師として貧困問題に取り組むならば、予防医学の中でも特に糖尿病を学んでおいたほうがいいのでは、と思い糖尿病内科を選びました。この頃から糖尿病という切り口にして、いずれは公衆衛生の分野に当てはめていくというキャリアプランを漠然と考えていました。

―後期研修では、実際に途上国で臨床の経験をしたそうですね。

後期研修2年目の時に、1カ月間途上国のクリニックで実地研修をしました。今まで問題意識はあったものの、途上国の現場で実際に経験したことが無く、1カ月間だけでも現場を経験したいと思いました。私が訪問したのは、タイ北西部に位置する国境の街・メ―ソートにあるメータオクリニックというところでした。そこは、貧困が原因で医療が受けられずミャンマーから越境した方や、タイ国内に住む不法移民・難民の方が無償で医療を受けられる場所でした。

メータオクリニックで実感したことは、日本でよく言われている代謝疾患を防ぐための健康知識は、途上国では全く適応できないということ。例えば、高血糖の患者さんで、はだしでいると足の感染症リスクが高いと説明しても、「私はいつも畑で元気に動いているから大丈夫」と言われます。いくら説明をしたところで、現地の方たちは症状がない糖尿病に対して危機感を持てないのです。こういった現状を知って、途上国の臨床現場や公衆衛生的な政策としていくら食事に気をつけて下さいとか運動に気をつけて下さいと言っても通用しないと痛感しましたね。

―臨床の経験だけでは、貧困問題の解決につながらない。次のキャリアパスは悩まれたのではないでしょうか?

そうですね。医師5年目の当時、貧困問題に対して課題感を抱きつつもキャリアパスに頭を抱えていました。自分は何をやりたいか――。自問自答する日々の中で、偶然インターネットである論文を見つけたのです。それはクワシオルコル(極度のタンパク質の欠乏と不十分なエネルギー摂取に起因する症候群)の原因についての研究でした。クワシオルコルが栄養失調だけではなく、腸内細菌の働きが悪いことで栄養をうまく吸収できないことが原因だと証明したものでした。その研究を知って、腸内細菌が私たちの健康や疾患に影響を及ぼすことは自分自身思ってもいなかったことだったので、非常に感銘を受けたのです。

腸内細菌の働きが悪く栄養が吸収されないならば、その逆のことも起きるのでは、と考えました。腸内細菌が原因で栄養が吸収され過ぎることで、肥満や糖尿病に影響するだろうと思ったのです。メータオクリニックでの経験から、現在一般的に言われている生活習慣の改善を徹底することでの予防医療や政策の限界を感じていたので、腸内細菌からアプローチすることが新たな糖尿病や、その後の合併症の予防策につながるだろうと考えました。これがきっかけで、本格的に研究の道へシフトしました。

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医師プロフィール

竹内 直志 糖尿病内科

東京都出身。2009年に慶應義塾大学医学部を卒業。2010年に聖路加国際病院で初期研修を修了、後に同病院にて後期研修を受ける。2014年からは理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チームに入職、同時に慶應義塾大学病院医学研究科に在籍し、現在に至るまで研究活動に取り組んでいる。

竹内 直志
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