日米の差異から学び、日本に浸透する腫瘍内科システムを模索したい
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◆臨床と研究を両立するのが自分のスタイル
―ハワイ大学に研修医として渡られて1年弱になりますが、現在はどういったことに取り組まれているのでしょうか?
日本のローテート研修とほぼ同様の形で臨床業務に取り組んでいます。一方で日本の方やアメリカ本土の方、ハワイ大学と共同など、さまざまな研究も行っています。研究は、私の中では大切なライフワーク。臨床と研究を両立するスタイルを自分の中で確立しています。
もともと、私のいた岡山大学の総合内科では臨床研究が盛んでしたが、博士課程は総合内科ではなく薬理学で学びました。並行して臨床業務に取り組む中で、研究を続けることが臨床に深みを持たせる意味でも重要だと実感。メインで研究しているのは血液の難病の1つである「キャッスルマン病」。約半年前に新しい診断基準を発表して、この分野においては日本で最先端を走っているのではないかと思います。
―海外留学前に「やっておいたほうが良かった」と感じられたことはどのようなことですか?
英語のトレーニングですね。恐らくどれだけ準備しても、現地で最初に困ることだと思います。事前にネイティブスピーカーやチューターの方を見つけて、定期的にトレーニングしておく必要があるのではないでしょうか。
私は中学生の時、洋楽にはまり、英検を受け始めたことから英語学習をスタートしました。英検取得が良い目標になって、高校1年生までにかなり詰めて学び、1級を取得。耳慣らしのために、起きている間はPodcastで英語をずっと聴いていました。ですから、大学の時には英語学習に苦労しなくて済んだのですが、留学となるとイントネーションなどでやはり問題もあったので……。留学直前の面接の頃には、オーストラリア人の方の英語教室に通っていました。
◆留学を考えていたが、G20で急遽医系技官に
―そもそも、なぜ医師を目指したのですか?
私が12歳の時に母ががんで亡くなったこともあり、高校生で進路を考えるようになって思い当たったのが医師でした。文学も比較的好きでしたが、やはり医学の道に進もうと思ったのです。
母のことがあったので腫瘍には常に興味があったのですが、初期研修を終えた後はまずは分野に関わらず全人的に患者さんを診れるようになりたいと思ったので、大学病院の総合内科に入りました。初期研修と同時に博士課程をスタートしたことから、大学に残る道を選んだ部分もありました。
―その後、臨床留学を目指されたのですか?
学生時代から、アメリカの方が腫瘍内科のトレーニングや立ち位置が確立しているので、いずれは渡米し学びたいと考えていました。ただ、初期研修を終えてすぐに行くより、博士号を取得したり研究を重ねたりして、何かしらの付加価値をつけてから挑戦した方が、採用される確率が高いと考えていたんです(米国外医学部卒の人のマッチ率は50〜60%程度)。
後期研修の後は渡米しようとしましたが、2019年に岡山で「G20 保健大臣会合」の開催が決まり、急遽岡山大学から一人厚生労働省に出向することになり、その1人に抜擢されたのです。
悩みましたが、国際保健や新しいフィールドにも興味があったのでお受けして、医系技官を1年半ほど務めました。厚生労働省への出向時に博士課程も修了したのですが、国際保健や公衆衛生の知識をさらに深めるため、カリフォルニア大学バークレー校の公衆衛生大学院に入学。同大学院は2020年夏に卒業しました。
―医系技官のお仕事はいかがでしたか?
医系技官の仕事といってもさまざまな部署があるので一概には言えませんが、私は国際課に所属し、なおかつG20関係という特殊な業務についていました。世界の保健行政関係者と関わり、各国の保健システム、各国のプライオリティ、日本はその中でどんなスタンスを貫いているかなどを学べたことは得難い経験でした。また、行政機関や厚生労働省を内側から見られたことも貴重でした。
出向後の留学をやめようかとも思いましたが、人生は一度きり。臨床が好きで、自分の本分はやはり臨床です。「日本を1度飛び出して知らない世界に挑戦してみたい」という思いもありました。
それで、医系技官の任務を終えてすぐに留学の申し込みをしたんです。決め手となったのは「初志貫徹」という気持ちです。ですが「自分の将来はこれだ」と100%フィックスしたわけではなく、ほかに興味が湧くことがあれば、そちらに進路変更してもいいと考えています。
医師プロフィール
西村 義人 総合内科医
ハワイ大学 内科 レジデント
岡山大学医学部卒業後、同大学総合内科で臨床業務に従事しつつ、同大学院医歯薬学総合研究科 薬理学分野で博士号を取得。2018年、厚生労働省に医系技官として出向する。2019年、G20岡山保健大臣会合関連の業務に従事しながら、米国カリフォルニア大学バークレー校に入学し、2020年夏、公衆衛生学修士を取得する。同年ハワイ大学へレジデントとして留学。臨床医として実務に従事する傍ら、キャッスルマン病などの研究にも精力的に取り組んでいる。
Twitter:@yoshi735