医師9年目の近藤慶太先生は、家庭医として診療に携わりながら「医療×ゲーム」で人々の健康を支えたり、スポーツ医学での活躍の場を広げたり、多岐に渡って活動しています。それぞれの活動で新たな可能性を探る近藤先生の取り組みと、その背景にあるキャリア観を伺いました。
◆医療とゲームの融合で人々の健康を支える「Dr.GAMES」
―一般社団法人「Dr.GAMES」では、どのような活動をされているのですか?
Dr.GAMESでは「医療×ゲーム」をベースに人々の健康をサポートすることを目指しています。現在は主に、3つの柱に基づいた活動を行っています。
1つ目は、ゲームプレイヤーへの健康介入。具体的には、eスポーツ大会の医療監修や現場での医療サポートです。過去には、高校生向けの大規模eスポーツ大会「STAGE:0(ステージゼロ)」で医療面のサポートを行いました。
またゲームによって、疲労感など身体的影響がどのように現れるのかという研究も進めています。今後、オリンピック競技に採用されるかもしれないと言われるくらい、eスポーツはスポーツとしての認知が高まってきています。そうなると、スポーツ医学の観点からも捉える必要があり、医療の介入は避けられなくなります。このような流れに対して、私たちも何らかの形で関わっていければと考えています。
2つ目はゲーム障害への介入です。これは、ゲームが引き起こす問題に対する啓発やサポート活動で、学校での出張授業や、保護者向けの「ゲーマーお悩み相談室」を行っています。
また「ゲームの終わらせ方ガイド」も作成しました。ゲームによっては、時間で区切りにくいものもあるんです。そのため、ゲームの特性を知らないままに、親御さんが時間で区切って子どものゲームを終わらせようとすると、親子関係を悪くしてしまう可能性があります。そこで、各ゲームに応じた区切り方をガイド内で解説し、ホームページ上に公開しています。
3つ目は、ゲームを用いた医療介入。これまで、謎解きゲームを用いたHPVワクチンの啓発などを行ってきました。
―Dr.GAMESを始めたきっかけや背景を教えてください。
私自身はもともと、ゲームをプレイするよりも作る側に興味があり、学生時代には謎解きイベントの制作に力を入れていました。亀田ファミリークリニック館山で後期研修を受けていた時、そのようなバックグラウンドから、地域住民や小中学校の先生向けにゲーム障害をテーマにしたレクチャーを担当することになって——久里浜医療センター主催のゲーム依存症治療指導者養成研修に参加したり、本や論文で自分なりに勉強したりしながら、毎年レクチャーを引き受けているうちに、さまざまなところから講義依頼が来るようになったのです。
一方、自分が好きな謎解きを活用して医療問題を解決できないか、と長年考えていました。例えば、病院に置いてある疾患啓発のパンフレット。読みたいと思う方はあまり多くないと思います。しかし、それにゲーム要素を盛り込んだら、楽しく医療知識を身につけられるのではないかと思っていたのです。
そんな時に亀田ファミリークリニック館山へ短期研修で来ていた、Dr.GAMES理事の阿部智史と出会いました。彼と意気投合し、「日本でこれほどゲームに情熱を注ぐ医師は他にいない。2人が組めば医療×ゲームで実現できないことはないだろう」との思いから、Dr.GAMESを立ち上げました。
―2021年にDr.GAMESを設立。これまでの活動を通じて、どのような手応えを感じていますか?
私自身はまだ道半ばだと感じていて、大きな成果を挙げたとは思っていません。ただ幸いにも、メディアで取り上げられる機会も増え、少しずつ認知されてきていることは実感しています。
ただ、ゲームが万人受けするツールだとは思っていません。もちろん好きな方は、ゲーム要素を取り入れたツールで楽しく医療知識を身につけてくれればいいですが、あまりハマらない方には、また別のアプローチが必要だと思っています。大事なのは、さまざまな人たちがさまざまなアプローチで啓発していくこと。ゲームは、あくまでも多種多様な方法がある中での選択肢の1つです。本当に小さな潮流の1つではありますが、今後も医療×ゲームのアプローチ方法は続けていきたいですね。
また、楽しく学べるツールとしてゲームを活用することで、医学教育の分野においても可能性を感じています。「楽しい方がいい」という思いを大切に、少しずつ活動を積み重ねていきたいと考えています。
◆キャリアパスを決める手がかりになったのは「先輩の本棚」
―家庭医療や総合診療に興味を持たれたのはいつ頃ですか?
私が家庭医療や総合診療に興味を持ち始めたのは、医学生の高学年の頃です。当時、サッカー部での活動と並行して謎解きイベントの企画をしていたこともあり、診断学に関心を抱いていました。
その後、初期研修先を選ぶ際に「どの分野に進むにしても、総合的な力を身につけたい」と考え、研修先の病院を探していました。学生時代に参加したアフリカで保健活動を行う団体で知り合った先輩がいる佐久総合病院(長野県)を訪れ、結果的に同院で初期研修を受けることに。初期研修を通じて、家庭医療や総合診療の道を選ぶことを決めましたね。
―佐久総合病院での経験が大きかったのですね。具体的にはどのような経験が総合診療を志すきっかけとなったのでしょうか?
病院に寝泊まりしている時、夜な夜な先輩の本棚の本で勉強していたら、いわゆる総合診療の赤本と言われる本に出会いました。その中で描かれていた医師像が、自分の理想とする姿に非常に近いと感じたのです。それで、家庭医療学を勉強してみたいと思うようになりました。
それで後期研修先は、出身の関東圏内で家庭医療学がしっかり学べる病院を探すことに。亀田ファミリークリニック館山を選んだ決め手は、やはり先輩の本棚でした。医学だけでなく幅広い分野の本を読んでいる先輩方が多く、医師として医学以外の分野にも興味を持って知識を身につけ、それを診療に活かす姿が素敵だと思ったんです。
—家庭医療をベースにしながら、スポーツ医学にも力を入れているそうですね。
この背景には、いくつもの偶然があります。まず私自身が長年サッカーをプレイしていたことや、亀田ファミリークリニック館山での研修カリキュラムにスポーツドクターの業務も組み込まれていたこと。そのため、地域のトライアスロン大会やマラソン大会で先輩につきながらスポーツドクターの業務を行っていました。他にも、なでしこリーグのクラブチームであるオルカ鴨川FCがホームで試合を行う際、会場ドクターとして相手チームの選手の救護も含めた業務も行ったことがあります。
そして転機となったのは、東京オリンピックの選手村での医療業務で、海外のチームドクターに接する機会を得たことです。日本では、スポーツ医学を担ってきたのは整形外科医です。一方の海外では、総合診療医や救急医などがスポーツ医学に携わり、専門性を活かして活動していたのです。このことに気付いたことで、総合診療医がスポーツ医学に携わることで、日本のスポーツ医学をさらに良くできるのではないかと考えるようになりました。
例えばチームドクターとして海外遠征に帯同する場合、当然整形外科以外の疾患への対応が迫られる場面はあると思います。また現在、私が勤務先でスポーツ内科に近い診療を行っていると、運動誘発性気管支喘息など、内科疾患で困っているアスリートが多いことも実感しています。普段から他の診療科や多職種との連携に重きを置いている総合診療医や家庭医だからこそ、そのようなアスリートの幅広い困りごとに対して活躍できる部分は多いのではないかと感じています。
まずは私が「実験台」としてスポーツ医学に関わりながら、総合診療医や家庭医がスポーツ医学で活躍できる場を広げられればと思いながら取り組んでいます。
◆ミッションを軸に、さまざまなことに挑戦し続けたい
―近藤先生のキャリアに対する考え方や、今後の展望について教えてください。
私のキャリアは、明確な目標を追い続けるというより、その時々で自分にとって最適な選択をしてきた結果だと感じています。根底には「人の楽しい・幸せをつくる」というミッションがあり、これを軸にゲームやスポーツといった自分の得意を活かしながら、多様な活動をしてきました。
私の中では、医療も「人の楽しい・幸せをつくる」ための手段の1つ。診療を通じて患者さんが幸せになったり、ゲームイベントで参加者が楽しさを感じたりすることが、私にとっての大きな喜びです。ですから今後も「人の楽しい・幸せをつくる」という大きな柱から逸脱していなければ、興味のあることに挑戦し続けたいですね。
―数年後、ゲームやスポーツ医学以外の分野にも関わっているかもしれませんね。
意識しているのは、その時々で興味を持ったことに積極的に取り組み、依頼されたこともなるべく断らないようにすること。昔から自分の足で動いてみることは大事にしています。たとえあまり興味の湧かない分野であっても、挑戦する中で新たな発見や出会いがあり、それが後々のキャリアで大きく役立つことがあると実感しているからです。一見無関係に思える経験が後に繋がる感覚は、スティーブ・ジョブズが語る「コネクティング・ドッツ」にも通じるものだと感じています。
「人の楽しい・幸せをつくる」という柱の周りで、自分の足でさまざまなことに挑戦する姿勢を持ち続けていれば、自然とキャリアが形成されていくのではないかと思っています。
(インタビュー・文/coFFeedoctors編集部)※掲載日:2025年3月18日