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世代間にコミュニケーションの齟齬を生むもの

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「若者はコミュニケーション能力が不足している」とよくいわれるが、若者だけにこの責任をなすりつけるのはあまりフェアではない。そこにあるコミュニケーションスタイルの違いとは?

ほんの25年ほど前まで、遠方の人とコミュニケーションするには、手紙やハガキなどを使うしかありませんでした。固定電話はありましたが、携帯電話やスマホとはずいぶん勝手が違いました。ラブレターなんていうモノが今よりもずいぶん価値があったのは、手紙という書記コミュニケーションツールだけが相手にダイレクトに届く唯一の手段だったからなのでしょう。

 

時代は移り、パソコンが普及してインターネット時代が訪れました。その後もモバイルコンピューティングへと進化し、2008年のiPhoneの登場は、わたしたちの世界を異次元へワープさせたと言ってもいいほどです。

 

電源とLANのある場所でパソコンの前に座って情報を発信する必要があった時代から、Wi-Fiとスマホによって、時間や場所の制約なしに、特定の個人だけでなく不特定多数の人ともコミュニケーションできる時代になったのです。今の若い人たちにとってはWi-Fiもスマホも、水道や電気のように当たり前かもしれませんが、このような変化はたった8年ほど前に生まれたものです。

 

デジタルネイティブとも呼ばれる若者は、Wi-Fiもスマホもパソコンも自在に使いこなしているようにみえます。彼らにとってインターネットは当たり前のインフラであり、日常的な環境なのかもしれませんが、他の世代まで見渡すとITとは無縁な人たちも少なくありません。

 

総務省の調べ(平成25年度末)によると 20歳代では83.3%がスマホを保有し、97%がインターネットを利用していますが、50歳代では33.3%と91%、60歳代になると7.3%と76.8%と20歳代と比べて大きな差があります。デジタルネイティブと呼ばれる若者は、スマホとWi-Fiを駆使して実際の会話に近いリアルタイム・コミュニケーションを行っているのに対して、50歳以上の世代は、同じ道具を手にしながらも旧態然と手紙をしたためるようにメールやチャットをしている姿が目に浮かんできます。同じコミュニケーションツールを手にしていても、その活用の仕方は違うようなのです。

 

世代間のギャップは、SNSの利用者数からも垣間見ることができます。Facebookを例にあげると、日本国内の総利用者数は2180万人(2014年6月)と国民の6人に1人にも及びますが、20~30歳代の利用者が1380万人もいるのに、50歳から64歳までの利用者はたったの190万人しかいません。

 

はじめからメールもブログもTwitterもFacebookもYouTubeもあったデジタルネイティブ世代と、時代の波に押し流されないようになんとかIT革命にしがみついているシニア世代では、コミュニケーション作法に齟齬が生まれても当然のことに思えます。

 

これは、テキストベースの「書記コミュニケーション」と音声ベースの「聴覚コミュニケーション」の活用スタイルが世代によって異なる。そんな差違が根底に潜んでいるのではないかと考えています。

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医師プロフィール

中川 雅文 耳鼻咽喉科

1986年 順天堂大学医学部卒業。医学博士
順天堂大学医学部講師、私学事業団東京臨海病院耳鼻咽喉科部長、順天堂大学医学部客員准教授、みつわ台総合病院副院長などを経て、国際医療福祉大学病院 耳鼻咽喉科 教授
著書に『「耳の不調」が脳までダメにする』(講談社)『耳トレ!-こちら難聴・耳鳴り外来です』(エクスナレッジ)ほか

中川 雅文
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