医療での国際協力と日本の展望[2]
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今後は政府機関のみならず、民間レベルで医療支援を試みる組織も増えるかもしれない。NGOだけではなく、病院、大学、学会レベルなどでさまざまな試みがなされると思う。おそらくNGO以外は大きな面での戦略を引かずに、点で行う支援の形が中心になるだろう。
NGOに関していえば、まず日本のしっかりした組織を作ることが大切である。海外のNGOに混ぜてもらうということはすなわち、その考え方に合わせるということを意味する。生死を伴う医療現場ではどうしても文化的な影響を無視できない。どのように最期を迎えてもらうのか? どのような治療をもって完結とするのか? 男女の違いをどのように位置づけするのか? 宗教的な事柄に対するスタンスをどう取るのか? どのような衛生管理のレベルなら許容範囲となるのか?などすべて文化的なバックグラウンドが大きく影響する事柄だからだ。
もうひとつ大切なことは、アジアで大きな成果を残したければ、現地にしっかりとしたロジスティックスがなければならないということだ。金銭的なインセンティブを確保することが必須なビジネス的センスでは、どうしても、長い目で見た効果的なロジスティックスを引くことは一見不要な多くのコストが発生し、普通の病院や学会などでは実行が難しい。その大切さは、成してみればわかるが、戦争は戦闘部隊だけでは到底成立しないことを考えれば容易に理解できると思う。そういう意味でも、日本の商社などはすでにしっかりロジスティックスが張り巡らされており、当然、病院経営に参入してくる。
しかし日本型の医療を輸出する際、ここにも大きな問題がある。それは日本人医療者の確保だ。これが海外での病院経営の大きなボトルネックになる。すでに日本の医療者は、金銭的なインセンティブだけでは動かなくなっている。また、金銭的なインセンティブを求めて動く人は、やはり金銭的な問題や待遇で流動することが多い。世界各地に日本型の医療を輸出しようと意気込んでも、その宣教師がいないという現状を多くの組織が克服しなければならない。
一方、ジャパンハートには費用自己負担にもかかわらず、1年にのべ500人もの医師・看護師(ほぼ同数)たちがボランティア活動に参加しており、その数は年を追うごとに増え続けている。マイナスの金銭的な負担にもかかわらず、自ら進んで医療活動に参加している。多くの医療者がすでに自己実現や生きがい、やりがいなどをキーワードに動き出しているということだと思う。このトレンドを知らずに金銭的なインセンティブで雇用を確保しようというのは、すでに時代遅れだと思う。
これからの多くの日本人医療者が、進んで海外の貧困層に医療を効果的に、しかも、長期的展望を持って提供するためには、やはり日本から世界的な医療NGO組織を作り上げるしかない。ジャパンハートはようやく日本の国力に見合った医療NGOとして動き始めた段階だと思う。
まだまだ日本のNGOといっても、国内外ともに外国製の器で動いている組織ばかりが目立つ。ミャンマーから始まり、カンボジア、ラオス、などで医療活動し、インドネシア、フィリピンでは災害訓練や緊急救援の支援を行い、タイでは統括拠点を設けている。今後はどのように各国にしっかりとしたカウンターパートをつくり、さらに大きく活動を広げていくのかが課題となる。
医師プロフィール
吉岡 秀人 小児科
特定非営利活動法人ジャパンハート 代表
1965年大阪に生まれる。大分大学医学部を卒業後、大阪、神奈川の救急病院で勤務。1995~97年にミャンマーにて医療活動を行う。一度日本に帰国した後、2003年から再びミャンマーへ渡り、2004年に国際医療ボランティア団体ジャパンハートを設立。2008年にNPO法人格を取得、ミャンマーの他にカンボジア、ラオス、フィリピン、インドネシアで医療支援活動や現地人医療者の育成、災害時の救援活動などを行い、また日本では、東日本大震災での被災地支援や心のケア活動、へき地・離島への医療人材支援、小児がんの子どもとその家族を応援する「すまいるスマイルプロジェクト」などを行っている。