介護・福祉問題の、クリエイティブな解決方法
記事
飯田大輔さんは2001年、母親急逝のため設立半ばとなってしまった法人を引き継ぎ、社会福祉法人福祉楽団の実務を任されました。。特別養護老人ホームの相談員や施設長を務め、2012年に障がい者の就労支援を行う「恋する豚研究所」を設立。新たに里山保護と障がい者や高齢者の活躍の場の創出に取り組んでいます。
◆介護福祉はクリエイティブな仕事
講演の前半では活動の原点と、これまで取り組んだ事例を紹介していただきました。
「社会福祉法人を設立するにあたり、約200件の福祉施設を回りました。すると、裸の老人がお風呂の前に並ばされていたり、普通の人でも覚えられないような複雑な操作が必要なエレベーターが設置されていたりするのを目の当たりにし、『福祉の世界ってこんなのでいいのか?』とすごく疑問に感じました。その一方で、課題山積であるからこそ多くの可能性があると感じました」
また、介護士が同じように接していても決して同じような結果にならない。その一回性である介護の仕事を、非常にクリエイティブに感じたそうです。そんな考えが根底にあるからこそ、多くの方が視察に訪れるような取り組みが可能となっているのでしょう。
◆障がい者の就労支援事業「恋する豚研究所」(千葉県香取市)
社会福祉法人として活動している中で、障がい者の働く場所がないという話を多く聞いた飯田さん。詳しく調べると働く能力のある障がい者が、月給1万円程度に留め置かれていることを知り、2012年に「恋する豚研究所」を設立しました。障がい者の賃金を10万円に引き上げるべく、社会福祉法人理事長で飯田さんの伯父にあたる在田正則さんの農場で育てられた豚を活用し、製造販売とレストランの運営をしています。
工場内では精肉作業、パッケージ詰め、シール貼等を、障がい者と健常者がともに行っています。肉の余計な脂をそぎ落としたり形を整えたりする作業は精神に障がいのある人に任せており、大きな包丁を用いての作業なので、精神障がい者施設の方が視察に来ると、非常に驚かれるとのことでした。
◆若者も集う高齢者施設「多古新町ハウス」(千葉県多古町)
高齢者や障がいのある子どものデイサービス、ショートステイ、訪問介護などのある長屋と広い庭、そして隣に寺子屋を併設した「多古新町ハウス」。デイサービスを利用するお年寄りや、特にデイサービスを利用しているわけではないけれどもおしゃべりに来るお年寄り、広い庭で遊ぶ小さな子どもたち、寺子屋には学校帰りの中高生が入れ代わり立ち代わり訪れる、そんな空間です。
寺子屋からはデイサービスが見えますし、寺子屋にはお手洗いがないので、デイサービスのものを利用します。だからこそ、自然と若者と高齢者の交流が生まれます。
たまたま夜に寺子屋の鍵を閉めずにいたら、深夜、専門学校生たちが集まって勉強をしていたところから、寺子屋は24時間無料開放にしているそうです。また、「福祉施設」という看板を掲げていないために泊まれる場所と思った高校の先生が「下宿先として使わせてほしい」と尋ねてきて、ショートステイ用の1部屋を高校球児の下宿部屋として提供することにしたそうです。
◆ニーズとリソースを知り、先に概念を作らない
これらの事例を紹介した飯田さんは「何が大事かと言うと、概念を先に作らないことです。『障がい者』というレッテルを先に貼らない。恋する豚研究所は、『就労継続支援A型施設』と建物のどこにも書いていません。多古新町ハウスも『福祉施設』と書いていません。老人ホームというラベリングをするから、『老人ホーム』になってしまうんです」と、おっしゃっていました。
そして、自分の身の回りに必ずニーズとリソースがあるので、それを組み合わせて経営的にも持続可能なものにしていく視点が重要とのことでした。参加者は自分の身の回りのリソースで、まだ活用されていないものを各自考え、数人ごとのグループで共有しました。
その後、2015年から始まったプロジェクトについてもお話しいただきました。
◆地域循環型エネルギーの流れを作る「里山プロジェクト」(千葉県香取市)
日本の国土のうちの70%が山、12%が農地。この8割の土地が荒れてきていることが問題となってきています。原因は、林業従事者の高齢化、材木価格の低下。そこで飯田さんは、障がい者の働く場を里山にも広げる試みを始めました。自伐型林業と呼ばれる間伐作業の工程を細かく分解して、各作業に必要な道具を作業や、どこでどのような安全点検が必要かを全て見える化することで、障がい者や、認知症の方でもできる作業が生まれると考えています。
「林業や農業というと端から難しいと思ってしまうと思いますが、作業を分解して見える化する。福祉の世界では「構造化」と言いますが、そうるすることで『難しい』という心のバリアをなくしてあげられると思うのです」
また林業従事者側には「本当に薪が売れるのか」という心配が出てきます。そこでまきボイラーを福祉施設に導入してもらい、一定量の需要を確保したいと考えています。。このように需要と供給のバランスが取れている環境を整備することで、里山を永続的にきれいに保ち、経営も持続する仕組みが成り立ちます。
「誰が一番喜ぶかというと、地域の高齢者です。地域の心配事を一つひとつ紐解いて、取り除いていってあげることが、地域に関わるうえで大事だと思っています。それが僕たちの役割です」
◆地域のニーズは、地域で解決する
概念を先に作らず、まずは身の回りにあるニーズを受ける。そして自分の身の回りにあるもので解決できそうであれば解決を試みる。その繰り返しを飯田さんは「コミュニティ・イン」と呼んでいました。
「PRESENT」の参加者は、意欲ある若手です。医療介護福祉の分野において、外に目を向け多くのことを学び実践しようとしています。そんな参加者が、一旦立ち止まり、身の回りを捉え直す良い機会になったのではないでしょうか。
医師プロフィール
田中 公孝 家庭医
2009年滋賀医科大学医学部卒業。2011年滋賀医科大学医学部附属病院にて初期臨床研修修了。2015年医療福祉生協連家庭医療学開発センター (CFMD)の家庭医療後期研修修了後、引き続き家庭医として診療に従事。医療介護業界のソーシャルデザインを目指し、「HEISEI KAIGO LEARDERS」運営メンバーに参加。イベント企画、ファシリテーターとして活躍中。