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INTERVIEW

一般社団法人CAN net 代表理事

腫瘍内科

杉山 絢子(すぎやま じゅんこ)

病気になっても自分らしく生きられる社会に

今や日本人の2人に1人が生涯でがんになるといわれています。しかしがんと診断されたときには、漠然とした不安を抱え、その先に待つ治療や生活のこともわからないまま病気と向き合わなければならないことがほとんどです。杉山絢子先生は自分自身が病気を経験しただけでなく、家族ががんになった経験を持ち、また医師の仕事を通して1,000名以上のがんの方と関わってきました。その中で感じたことは、病気になったことで起こるさまざまな問題への対応として自分が望む選択をし、自分らしく生活していくための各個人の「事前学習」の場と、医療・介護・福祉にとどまらない幅広いサポートの必要性です。杉山先生はさまざまな専門家が垣根を越えて多方面から病気になった人を支える組織「CAN net」を立ち上げ、「がんや病気になっても自分らしく生きられる社会」の実現を目指しています。

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病気の経験も一つのスキル

CAN netとは、どのような団体ですか?

CAN netは「がんや病気になっても自分らしく生きられる社会をつくる」という理念に共感してくれた社会人が集まり、病気経験や職業のスキルを社会のために生かす活動をしている団体です。病気になった人がその後もいきいきと楽しく暮らせるようなサービスは、まだ多くはありません。CAN netの中では、そういったサービスが自然と作られていくような仕組みづくりをしています。また、病気になっていない人が恐怖から病気を知るのではなく、すべての人が病気と建設的に向き合い、病気になった後の事前準備がある程度できている状態になれるような学びの場も提供しています。

病気や生死について考えることなく生きていくと、年を重ねた時に誰もが向き合うことになる喪失体験に準備のないまま直面し、大変な思いをすることがあります。耳触りのよい情報に飛びついたり、誰かを恨んだり、怒ったり……。病気や生き方についての情報をきちんと理解し、選択して生きていくことができれば、自分にとっても周りの人にとってもよいのではないかなと思うのです。

私は病気経験をスキルだと思っています。病気と向き合うときには、さまざまなことを考え、選択します。その経験を通して得た判断力や生き方は、その後の人生を「自分らしく生きる」ことにも大切だと思うのです。病気になった人が持つ知恵を社会に還元することで「病気になって得た知恵ってすごいよね」と、尊敬される世の中になるといいなと思っています。

 2014-06-20 15.21.00

具体的にはどのような活動をされているのですか?

当初からやっているのは相談窓口です。「チームがんコンシェルジュ」として100名ぐらいの専門職の皆さんが協力してくれていて、がんで悩む方やその家族の相談に応じています。2013年の6月から始めたサービスですが、総相談軒数は170件ほどになりました。

現在取り組んでいるものには、美容と医療のプロジェクトもあります。市民センターや病院などで美容相談会を開いたり、病気になった人向けのウィッグに対応している美容院のマップをつくったりしています。病気になったときの外見の変化に対するサービスはまだ少ないので、それをプロに相談する感覚も今はあまり浸透していません。だけど私は、薬だけではなく、美容のように気分がふっと明るくなるようなものも処方できるようになれたらいいなと考えています。

このプロジェクトで調査を行ううちに、美容師さんたちは地域の皆さんからさまざまな相談を受けていることがわかってきました。美容師というのはある意味特殊な職業で、どんな人でも生まれてから死ぬまで、美容院や理容室にはずっと通うんですよね。そんな職業って他にはなかなかありません。こういった方々の力を医療の面でも生かすことができれば、医療業界の人たちが抱えすぎている問題を社会の中で分散して持つこともできるのではないかなと思っています。

実際に、病院だけでは対応できないこともたくさん存在しています。特に感じているのは、病院とうまく合わなかった患者さんをサポートする人の必要性です。例えば精神科の病気を持ちながらがんになってしまった方がいた場合、両方の治療がうまくできればいいのですが、それができないところでは社会からポツンと取り残されてしまう可能性があります。

就労の問題もあります。働きながら治療できるのに病気を理由に会社を辞めさせられてしまった人がいても、病院ではどうすることもできません。また生活の問題もあります。生活保護が必要な場合に「こういうのがあるよ」ということを病院で説明することはできても役所まで連れて行ってあげることはできないし、助けになる制度があることを知って手続きに行ったとしても、よくわからないまま帰ってきてしまう人もいるのです。

病院だけではできない合間のところをもっとうまくつなぐことができればいいのにと思っています。地域連携の重要性はよく言われていますけれども、その中でも大切なのは困っている人を放置しないことだと思うのです。そこをサポートする人に、特殊なスキルは必ずしも必要ではありません。今持っているものを生かし自分にできる範囲で、困っている人をその人が必要とする情報やサービスに「つなげる人」。そういう人がもっとたくさんいることが大切なんじゃないかなと考えています。

CAN netの活動は私が一人でやっているわけではなく、各地にいる事務局長と運営メンバーがその地域の課題に取り組んでいます。当初5名だった運営メンバーも今では30名ぐらいに増えました。これまではCAN netでできることが楽しいし自分のスキルになるからやっているというようなアンテナの高い人たちが集まって活動してきましたが、ボランタリーなコミュニティをいかに事業化していくかという点は今後の課題です。

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PROFILE

杉山 絢子(すぎやま じゅんこ)

一般社団法人CAN net 代表理事

杉山 絢子(すぎやま じゅんこ)

2002 年旭川医科大学卒業。北海道の地方医療を経験後、がんの化学療法を勉強するため国立がん研究センター東病院化学療法科のシニアレジデントを修了。2013年「誰もが病気になっても自分らしく生きられる世の中」の実現をビジョンとする一般社団法人CAN netを立ち上げ、代表理事に就任。CAN netの事業内容を発表した「社会起業大学ソーシャルビジネスグランプリ2013年冬」ではグランプリを受賞。北海道で現役の腫瘍内科医としても活躍している。医学博士、がん薬物療法専門医

CAN net:http://can-net.jp/

 

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