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INTERVIEW

メルクバイオファーマ株式会社

メディカル本部長

伊藤 孝幸

従うべきは、既存の医師像より自分のキャリアイメージ

臨床と研究に従事したのち、2008年にグローバル製薬企業へキャリアチェンジされた伊藤孝幸先生。臨床開発やメディカルアフェアーズ等の従来組織の枠組みを超え、企業のビジネスや組織づくりといった分野でも活躍されています。どのような考えから製薬企業へ飛び込み、より広範に活躍できているのでしょうか。キャリアビジョンの描き方とあわせて伺いました。

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製薬企業内で役立つ医師のバックグランド

―現在の仕事について教えてください。

自治医科大学を卒業し、15年間、地域医療と医学研究に従事したのち、製薬企業に飛び込みました。

現在は、メルクバイオファーマ株式会社のメディカル本部長として、キーオピニオンリーダーからいただいたインサイトを収集し、臨床開発からマーケティング等を含む企業戦略に活用し、さらにそれを用いて患者さんに役立つ新たなデータを創出し、我々が製造販売している医薬品の価値を高めることを使命とする部署を統括しています。また、会社のビジネスのみならず、組織改革や企業文化の浸透をリードする立場でもあります。

これまで、約15年間の製薬企業経験がありますが、3年間は臨床開発、残りの12年はメディカルアフェアーズという領域で仕事をしてきました。

―そのような仕事をする際、医師というバックグラウンドはどのように役立ちますか?

1つ目の強みは、医療現場や患者さんのことをよく分かっていて、多くの関係性があること。また、医薬品の背景には最先端の科学やテクノロジーが使われていますが、そこでも医師ないし医学研究者としての経験が活かされています。

また、企業や組織にはさまざまな病理があると考えています。職場では、人間活動の多くの時間を過ごすことになるので、人間関係や組織に「病い」があれば、管理職として取り組む必要が生じます。臨床経験があると、このような「病い」の原因や、適切な処方が感覚的に分かるわけです。臨床経験を活かして組織の問題に取り組むことにより、単に医学専門家という枠を超え、企業における医師の存在価値を高められると実感しています。

また医師は日頃から、患者さんの病気の見通しを立て、よりよい治療を提供できるよう工夫します。この経験で培われた未来予測能力や構想力は、ビジネスをリードする際にも応用可能です。その意味でも、臨床経験を持つ医師が企業で活躍できる機会は大変多いと思います。

さらに医師は、臨床経験を通じて、患者さんについて真剣に考える姿勢や強い倫理観を醸成しています。昨今、企業倫理や患者中心の企業ビジョンが重視されつつあるので、医師という倫理的存在が大きく期待されているのです。

そして個々の患者さんの命を守り、生命の質を高めることは、社会全体に貢献することにつながります。「製薬企業は社会の公器」という私の恩師の言葉がありますが、企業が医薬品とその情報をしっかり医療関係者や患者さんに届けることにより、健康寿命を延長し、社会の発展につながるものと考えています。

このように、臨床医としての経験が、ビジネス、組織改善、そして企業文化の醸成に活かされていくのです。

―しかし、企業の中で活躍する医師はまだ少ないように思います。その要因は、どういった点にあるとお考えですか?

私が15年前に製薬企業に入った時は、企業で働く医師が増えていくと期待し、そのために貢献したいと思っていたのですが、ご指摘の通り、まだ少ないのが現状です。

要因の1つは、医療と企業で文化のギャップが大きいことです。私が管理職になって、医師の部下をマネジメントしはじめた時には、勇気をもって飛び込んだものの、このギャップを理由に1年以内に辞職し、業界を去っていく医師が半数以上を占めていました。

医療の世界はヒエラルキーやパターナリズムがいまだに強い傾向がありますが、企業では対等の横のコミュニケーションを通じて、チームとしてプロジェクトを成功させる意識が重要です。この意識を強く持つことが、企業の文化や環境に適応し、キャリアの第一歩目を上手にクリアするうえで肝要です。

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PROFILE

伊藤 孝幸

メルクバイオファーマ株式会社

伊藤 孝幸

メルクバイオファーマ株式会社メディカル本部長
1994年、自治医科大学医学部を卒業。地域医療に従事し、2007年自治医科大学大学院博士号取得。2008年10月にサノフィ株式会社へ入社。その後、アッヴィ合同会社で臨床開発、MSD株式会社でメディカルアフェアーズに携わる。2018年4月より現職。2022年マサチューセッツ大学ローウェル校でMBA取得。

 

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