ヒマラヤで初めて触れたフィールド医学
先生は「フィールド医学」を研究されているとお聞きしましたが、フィールド医学とはどのようなものなのですか?
簡単に言うと、病院に来る「病人」を診るのではなく、私たちとは文化が異なる場所で生活する人々を調査して、病気のありさまを、自然環境や文化的背景との関連でもう一度病院の外で捉え直そうとする研究領域です。
例えば、病気をどのように受けとめて、その病気に対してどのように行動するかというのは、文化が異なると大きく変わってくるのですが、このことは現地にいってみないとわからないことだったりします。
私は、住民が住んでいる場に実際に赴き、住民の生活全て(何を食べ、誰とつきあい、誰とどんな行動をしているのかなど)をその場で見ることによって、食生活だったり環境的原因だったりの問題点を調査しています。

なるほど。とてもおもしろい医療分野ですね!実際にはどのような場所に行っているのですか?
初めてフィールド医学の調査に参加したのは、インドのラダックというヒマラヤのふもとでした。その時に、標高4,000メートル位の高所にて調査をしたのですが、周りの人たちが皆高山病でダウンする中、なぜか私だけピンピンしていて・・・(笑)
それ以来、自分が高所に強いということがわかり、毎年夏になるとフィールド医学のメンバーとして、1ヶ月単位で中国、ヒマラヤ、アンデスなどの高所での調査を行っています。
チベットにはうつ病患者が少ないのは?文化と医療の両方でみる
フィールド医学の研究を行うことによってわかったことはありますか?
元々は臨床心理を専門にしていたので、現地ではうつ病の捉え方に関する調査も行っていました。その中で、チベットの人たちは日本人に比べてうつ病患者が少なく、その理由がチベット人の「地域コミュニティーの結びつきの強さ」と「強い信仰心」にあるということがわかりました。
例えばチベット人の場合、近所のおじいちゃんが倒れたら近所の人たちが食事の面倒を見るのは当然ですし、誰ということなく家畜の世話も手伝い、コミュニティー全体で助け合って生きています。
この地域の強い結びつきというのは、日本が発展するにつれて失ったもので、それが原因で日本ではうつ病患者が増加しているという見方もあるんですよ。
先進国のように生活の場と仕事の場が離れ、移動距離が増えることによって、地域の結びつきが弱くなったのかもしれませんね。先生がその他にチベットで驚いたことはありますか?
信仰心の強さですね。
チベットではほとんどの人が純粋なチベット仏教信者で、輪廻転生(生まれ変わり)を信じているので、「来世が良くなるために、今お祈りする」というような考え方を持っています。そのため、今不幸がある場合は「今までの行いが悪かったから」「お祈りが足りなかったから」という風に考えるんですね。
そのチベットでお寺にいったのですが、その時に20代くらいの若者達が五体投地(全身を投げ伏して、礼拝する姿のこと)で泥だらけになりながらお祈りをしている姿を目にしました。そんなに一生懸命に何を祈っているのか聞くと、「World Peace(世界平和)」という答えが返ってきました。
20歳前後の若者が、世界平和のために真剣に祈る姿を見て、本当に殴られたような衝撃を受けましたね。日本人でお祈りする人は、大抵自分のこととか、家族、友人などの自分の身近な人たちのためにしか祈らないじゃないですか?世界平和のためにお祈りする日本人なんて、多分いないですよね。
そこでチベットの人たちの信仰心の強さに、本当にガーンと殴られたような衝撃を受けました。

秋田の先祖の血を継ぐ開拓精神
「文化」と「医療」という、とてもおもしろい視点で病気を調査していらっしゃる先生ですが、今のような、他の人と異なるスタイルの医療を研究するに至った経緯はあるのでしょうか?
それについては、私の先祖の存在が大きいかもしれません。
私の先祖は、石川理紀之助といって、明治時代に全国の貧困にあえぐ農村を救済した「聖農(せいのう)」と呼ばれる指導者だったんですよ。先祖のように、時代の先駆者となり、「国を治す」というところまで最終的にやっていきたいという夢があったので、人が敷いたレールではなく、自分で道を切り拓いていきたいという志が元々ありました。
それに加えて、旅好きだった事や、色んなことに広く浅く興味があって、その場その場で、「あれもおもしろい!これもおもしろい!」と思いながらやってきた結果、今のようなスタイルに辿りつきました。
色んなことに興味がある結果、専門医を8個取得することにもなりました。この資格8個というのが私のブレを物語っていますよね…。
資格を8個も取得するなんて普通はできないですよ!でも「ブレている」というところが逆に先生の強みなのではないでしょうか?
そうかもしれないですね。ブレていることで興味が広くて色んな視点を持っていると言うことができるのかもしれません。目の前のことだけじゃなくて、一歩先が見えるというか・・
先生のお話は、全ての行動にアツい想いが伴っていて素敵ですね!今後についても、アツい想いもお聞かせください。
とにかく、既存の悪いものを全て壊して何かをやり遂げたいという思いは、人一倍強いです!
自分自身若い頃は自信がなくて、こんな風に想いを人に語ることはなかったのですが、東日本大震災やチベットの被災地支援、女子医大でのベスト指導医賞受賞などを経験して、想いを示すと皆がついてきてくれるという自信がつきました。
どんなに個人が優秀であっても、個人が診られる患者さんの数は限られているため、それだけを行っていても「国は変わっていかない」という意識を持っています。
最近は「国を変える」という最終目標に近づくため、自分と同じような後輩を育てていくという教育論にも興味があります。そしてみんなで「患者さんのためであり医者のためでもある医療システム」を作っていきたいと考えています!

ライター /高橋由佳、インタビュアー/高橋由佳・松澤亜美