◆予期せぬ医学部新設と困難を極めた人材確保

―医学部新設の初代病院長として、どのような取り組みをされてこられたのでしょうか？

最も注力したのは教員の確保です。私は、医学部新設がまだ決まっていなかった2014年にお声がけをいただき、院長職を引き受けることを決めておりました。その後、医学部新設構想が採択され、2015年4月に病院長就任となりました。就任直前の3月には、医学部設立に向けて文科省に申請を行う必要があったため、就任前からそのための準備に追われました。

ただ、医学部新設の構想を審査する「構想審査会」という組織からは、申請を認める上で7つの条件が出されていました。そのうち6つの条件をクリアすることは難しくありませんでしたが、最後の1つである「東北地方の医学部と医師会、行政の3機関による教育運営協議会を作り、その意見を聞いて構想をまとめよ」という条件をクリアするのが非常に厳しいものとなりました。

当時、ここに挙げられた3機関は全て医学部新設に反対の立場であったからです。「東北は医師が足らず、教員として連れていかれると医療が崩壊する。だから医師個人が転職を希望しても、勤務先責任者の事実上の了解として意見書をもらうこと。また東北大学からの移籍者は3割程度以下に納めること」という厳しい条件を突きつけられ、申請のために必要であった臨床系教員を集めることに苦心することになりました。

―厳しい制限のなか、どのように人材を集められたのですか？

比較的、医師の多い地域から採用するように挑戦しましたが、それでも困難を極めました。なぜなら、大学の研究室は教授、准教授、講師、助教とチームで構成されていますよね。そういったチーム、足場が無いところの教授になりたがる方はまずいませんし、もし手を挙げてくれる人がいても、続く准教授や講師がいません。チームを構成できるように人を集めなくてはならない上、さらに厳しい条件をクリアせねばならず非常に大変でした。

学会や理事会で知り合った方々の伝手をたどったり、結局どうしても東北大に頼らざるを得ない部分もありました。当院の前身である東北厚生年金病院時代から勤務していた医師にも、教員になることをお願いしたのですが、半数からは断られてしまいました。最終的に、残ってくれた約40名と外部から招聘した約100名を合わせて、最低限の臨床系教員を確保してようやく申請できました。

その後も採用を続け、現在臨床系教員は200名ほどになっていますが、当初の最終目標は250名でしたので、まだ5分の4ぐらいです。この人数では教育と診療でほぼ手一杯ですが、研究もしっかりとしていかなくては真の大学病院とは言えません。そうなると、教員だけでも250名、若手医師や研修医を合わせて300名以上の医師が必要と考えます。そういう意味ではまだまだ足りないと思っています。

◆無茶ぶりへの対応で度胸と技術を磨く

―近藤先生は、なぜ医師を目指されたのですか？

周囲からの影響が大きかったのかもしれません。祖父が眼科医で、両親の兄弟にも医師がいました。強い想いがあって医師を志したわけではないのですが、振り返ってみれば、人間を相手にする仕事は、やはり一番面白く、やりがいを感じます。生まれ変わっても医師になるだろうと思います。

―呼吸器外科に進まれたのはなぜですか？

実はあまり明確な将来像があったわけではありませんでした。卒業後の進路を考え始めた頃、同級生からの情報で、大学内にある抗酸菌病研究所（現・加齢医学研究所）に興味を持ちました。そちらの呼吸器外科の先生とお話して、直感的に「自分に向いているかもしれない」と思い、呼吸器外科の道に進みました。

―抗酸菌病研究所で働かれていた頃に得たものとは？

抗酸菌病研究所で仕事を始めて間もなく、市内の病院の当直をさせられました。医局の要請があれば、新米でも何でも外の病院の手伝いに行かされていました。毎月のように、定期船で離島に渡って診療したり、臨床経験4年目で、一人外科医として関連病院へ赴任したり――。自分しか医師がいない場面では、自ら調べて対処するしかありません。当時は、何でも診ることが当たり前でした。

そのおかげでしょうか、今でも大概のことに対応できる自信はあります。新設医学部の初代病院長になった時のように、想像もしていなかった役割や、目の前に出現した課題から逃げずに立ち向かっていく度胸のようなものは、この時の経験から培われたのかもしれません。

◆患者や家族の信頼を得られる医療を最優先に

―来春には1期生が巣立ち、ご自身も退任を予定されています。今どういうお気持ちでいらっしゃいますか？

まずは「まともな医師」になってほしいですね。「まともな医師」とは、患者さんやご家族と向き合い、きちんとコミュニケーションをとり、信頼関係を築ける人のことです。それができる人は、自分の役割や得手不得手を理解したうえで、他の医療者と協同して診療にあたることができると思います。相手の信頼を得られなければ、いくら知識があり技術が高くても、真の医療、つまり患者さんからの満足度の高い医療は実践できないのではないでしょうか。

私自身については、退任後1年間は病院に残る予定になっています。その後は少しゆっくりしながら、自然豊かな場所で農業でもしようかと考えています。ただ、もし自分が求められる場所があり、応じられるのであれば応じていきたいとは思います。

―地域に根ざした医療への取り組みや組織づくりへの考え方は、どこで育成されたのでしょうか。

予期せぬ問題に直面しながらも、一つひとつ解決しながら、何とか仕事をしていくうちに学んでいった気がします。でも、仕事とは本来そういうものではないでしょうか。最初から全て計画を立てていても、うまくいかないことも多いと思います。白紙で始めて、周囲と相談しながら構想を組み立て、問題点を洗い出して解消し、方針を考えていく。そこが仕事の面白さなのだと思います。

―最後に、後進の先生方へのメッセージをお願いします。

私の後任となる先生には、ごく一般的な病院の病院長としての感覚を失わないようにしてほしいです。ここは大学病院ですが、規模はそれほど大きくありませんので仕事はやりやすいのではないかと思います。さまざまな職種間の風通しを良くし、意思疎通を円滑にするための「まとめ役」として頑張ってほしいと思います。

また大学病院だからといって、先進医療に重きを置き過ぎたり、専門医育成ばかりに目を向けるのではなく、「地域の病院として、地域のさまざまな患者さんを診る」という市中病院の風土を失うことなく、そのように学生を教育し医師を育てていってほしいです。

研修医や若手医師には、「地域に根差した医師」となるために、さまざまな医療機関に率先してでかけて行き、色々な環境や人に触れて、多くの課題に向き合って、そこでしか得られない経験を積んでほしいです。

年々、地域医療支援に出ていく医師が増えてきていますが、大学や病院の外にどんどん出向いて自らのネットワークを広げ、多くの医師や病院と結びつきを強める努力を継続的にしていっていただきたいですね。

（インタビュー・文／coFFeedoctors編集部）　掲載日：2021年9月21日