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INTERVIEW

筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻

産婦人科

遠見 才希子

産む選択、産まない選択、その両方を大切に

大学生の頃から性教育の講演活動を全国の中学・高校などで行い、現在は性教育についての講演、執筆をしながら、筑波大学大学院に在籍し、非常勤産婦人科医として働く遠見才希子先生。緊急避妊薬や安全な中絶に関する政策提言も行っています。3人の子育てをしながら精力的に活動する遠見先生に、これまでのキャリアや日本社会が抱える性に関する課題などについて伺いました。

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◆緊急の薬を手に入れられない女性がいる事実

―現在の活動について教えてください。

妊娠をきっかけに臨床の第一線から離れ、現在は性教育についての講演、執筆をしながら、非常勤で産婦人科医を続けています。専門医になってこれからという時期に一線を離れたことには後悔もありますが、臨床現場では見えなかった現実も見えてきました。その代表的なものが、緊急避妊薬の問題です。

女性の健康や権利に関わる大切な薬ですが、日本では緊急避妊薬を手に入れるためには産婦人科などの受診と自由診療ゆえの高額な費用も必要です。臨床を離れ視点が変わったことで、急を要する薬を必要な時に手に入れられない女性が数多くいることを痛感したのです。

私自身、緊急避妊薬のために受診された方を何時間も待たせてしまうこともあったと思います。緊急で必要な薬を入手しづらい現状は、当事者の自己責任の問題ではなく、性の健康を守る社会のシステムが整っていないからだという事実に気付くことができていませんでした。それを反省して2018年以降、緊急避妊薬の市販化を求める政策提言も始めています。

―どのように啓発活動をされているのですか?

緊急避妊薬の問題に風穴をあけて社会全体で考えなければと思い、積極的に取材を受けてメディアで取り上げていただいたり、仲間と一緒に「 #緊急避妊薬を薬局で プロジェクト」を立ち上げ、約15万人のオンライン署名を集め、要望書を厚労省に提出しました。その結果、2021年10月に厚生労働省の検討会に参考人として出席しました。政策議論の俎上に載せるところまで辿りつきましたが、市販化には至っていません。反対意見として、性教育の遅れや安易な使用への懸念が挙げられています。

そこには「性と生殖に関する健康と権利(Sexual Reproductive Health & Rights : SRHR)」の視点が抜け落ちているのではないでしょうか。自分自身、その視点を臨床医時代はあまり意識できていなかったのですが、意図しない妊娠の不安を抱える全ての女性に緊急避妊へアクセスする権利があります。性に関する問題は、たとえ知識があっても、いろいろなことが起こります。緊急避妊薬は、意図しない妊娠を防ぐための重要なバックアップであり、女性が必要だと感じたときに薬局などで安く入手できるということが世界のスタンダードです。緊急避妊薬だけでなく、人工妊娠中絶や流産に関することも、まだまだ世界のスタンダードと異なる部分がたくさんありますので、その情報発信のためのプロジェクトも立ち上げて活動しています。

緊急避妊薬を薬局でプロジェクト:https://kinkyuhinin.jp/
セーフアボーションジャパンプロジェクト:https://safeabortion.jp/
リプラ(リプロダクティブライツ情報発信チーム):https://reproductiverights.jp/


―緊急避妊薬に関心が向いたきっかけはなんだったのでしょうか?

私は大学生の時から性教育の講演活動を中学・高校でしていますが、講演後には生徒たちからの感想が届きます。なかには性暴力の被害経験を打ち明けてくれる子もいました。「この性暴力の問題ともっと向き合わないといけない」と大学院で研究テーマに据えて、そこから派生して今の活動につながりました。

なかでも大きなきっかけは、2019年の厚労省検討会での「性暴力被害者なら手に入れやすくしてもいいが、それ以外は安易な使用が増える」といった議論に衝撃を受けたことでした。

なぜなら、そもそも被害にあったことを打ち明けるとは限りません。内閣府の調査(令和2年度)によると、レイプされた女性のうち警察に相談した女性は6.4%、医療関係者に相談した女性は0.8%です。被害をすぐに認識できないことや誰にも相談できないこともあります。性交からなるべく早く72時間以内に服用するというタイムリミットがある薬にもかかわらず「被害者なら薬を手に入れやすくしていい」という形は、被害者にとっても人権侵害で二次被害になりかねません。

そこに大きな悲しみと憤りを感じて、緊急避妊薬の問題に力を注ぐようになりました。緊急避妊薬が必要となる理由や背景はさまざまです。そして、私たち医療者は目の前の人の人生のごく一部しか知りえません。「安易だ」とジャッジメントすること自体、権利の視点とはかけ離れているのではないでしょうか。

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PROFILE

遠見 才希子

筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻

遠見 才希子

1984年生まれ、神奈川県出身。2011年聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業。亀田総合病院で初期研修、産婦人科専門研修修了。2017年から筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻社会精神保健学分野在籍。「えんみちゃん」のニックネームで大学時代から全国の中学校、高校などで性教育の講演を行い、その数は1000校を超える。現在、緊急避妊薬についての政策提言も精力的に行っている。『だいじ だいじ どーこだ?』(大泉書店)『性とからだの絵本』(童心社)『わたしの心と体を守る本』(KADOKAWA)など著書多数。

【設立団体】
緊急避妊薬を薬局でプロジェクト:https://kinkyuhinin.jp/
セーフアボーションジャパンプロジェクト:https://safeabortion.jp/
リプラ(リプロダクティブライツ情報発信チーム):https://reproductiverights.jp/

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