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INTERVIEW

東京大学医科学研究所附属病院

緩和医療科

岩瀬 哲

制度化のため「予防医療」の効果実証が役割

東京大学医科学研究所附属病院の緩和医療科・岩瀬哲先生は、在宅ケアに移行したがん患者の24時間見守りシステムを構築、運用する一方で、鹿児島県にある離島で骨折による島外緊急搬送数減少のための介入研究を進めています。一見すると関係のなさそうな2つの取り組み。この根底には、ある大きな目標がありました。

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在宅ケア移行後の緊急入院率7割超

―現在、最も注力されていることはどのようなことですか?

2016年、あるビッグデータを解析しました。がんが原因で亡くなった数十万人のデータを解析したところ、亡くなる1カ月前の再入院率は、なんと70%を超えていたのです。亡くなる3カ月、6カ月と範囲を広げると、限りなく100%近づくでしょう。さらに解析を進めて現在、他の慢性疾患も解析中です。このリサーチから言えることは、日本のがん患者さんは在宅医療を導入しても、高確率で緊急入院しているということです。

私はこの状況を変えるため、がんで入院された患者さんが、安心して在宅医療に移行できる、つまり緊急入院にならないようなシステムを構築することを目標にしています。

在宅ケアに移行する患者さんは何を不安に思い、何が必要か―。がんのみならず慢性疾患も同様ですが、一番心配なのは、家で具合が悪くなり苦しくなることだと思います。ですから、そうならないように安心できる環境設定が必要なのです。この環境設定は、自宅に帰った後をサポートする在宅診療医ではなく、我々急性期病院の役割です。我々は患者さんに在宅診療医を紹介して終わりではないのです。

苦しまないで亡くなることは、現代の医療システムを充実させることで十分に可能だと思います。しかしながら現在、医師や看護師などの医療スタッフ、家族や患者さん本人も、在宅療養中に増悪して緊急入院することは仕方のないことだという認識があるかと思います。日本では、誰もがそれを予防できないと考えています。

―具体的には、どのようなことをされているのですか?

1つはICTデバイスを活用し、我々がいち早く在宅患者さんの日常活動性(ADL)低下を察知できるシステムを構築、運用しています。ロコモティブシンドローム予防体操やラジオ体操などADLの評価ツールとなる動きの動画を、ご家族などに撮っていただきデバイスで共有してもらいます。それを理学療法士などのリハビリ専門の医療者が、ADLの低下がないか確認していきます。

他にもご家族が気になった点をデバイスに入れてもらうなどすることで、24時間ADLチェックが行える環境にしています。ADL低下を察知したら連携している在宅診療医に訪問を依頼し、直接診察、必要があれば予定入院をしてもらうなどの対処をしています。

なぜADL低下をチェックしているのかというと、人間の身体の中でどこかの機能が落ちると、必ずADLが落ちるからです。中枢機能が落ちてもADLは下がりますし、心肺機能が落ちても同様です。患者さんが苦しいと訴えなくても、ADLが下がっていることがあります。そのような変化をいち早く察知して、“急な”病状変化を防ごうとしているのです。

―なぜそれを急性期病院の医師である岩瀬先生が行っているのですか?

在宅診療の先生方は月に数回の定期訪問で、1回30分程度しか患者さんと接する機会がありません。それでは患者さんの変化を素早く察知するのは困難だと思います。もちろん在宅診療医を批判しているわけではなく、今以上に患者さんと接する機会を作ることは無理があります。ですからその隙間を埋め、病院と診療所のより密接な連携を図るために、急性期病院が担うのです。

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PROFILE

岩瀬 哲

東京大学医科学研究所附属病院

岩瀬 哲

東京大学医科学研究所附属病院 緩和医療科 特任講師
1994年、埼玉医科大学卒業。埼玉医科大学総合医療センター放射線科助手、東京大学緩和ケア診療部副部長を経て2012年4月より現職。2017年4月からは、鹿児島県薩摩川内市と共同で甑島における予防医療の質向上のための研究を進めている。

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